まるでスイス風“しゃぶしゃぶ”!レマン湖畔で出合った美味「フォンデュ・シノワーズ」

旅の楽しみの醍醐味に、何と言っても“食べること”がある。その土地でしか食べられない名物と出合い、そしてそれが期待以上に美味しかった時、旅の思い出も至福の色合いを強くする。
第3のフォンデュとは?
スイスの名物料理と言えば、溶かしたチーズをパンやジャガイモにかけて食べるラクレットと並んで、フォンデュがある。チーズ・フォンデュとミート・フォンデュはよく知られていて、日本でもレストランなどで食べたことがあるが、第3の存在、「フォンデュ・シノワーズ」というメニューを知った。「シノワーズ」は“中国風”という意味なので「中国風フォンデュ」なのだが、ジュネーブの街で初めて出合ったそれは、まるで「しゃぶしゃぶ」のような“装い”だった。
ジュネーブで出合った味

レマン湖畔に程近いレストラン「オーベルジュ・デュ・サビエーズ(AUBERGE DE SAVIESE)」。店内には観光客の姿もあるが、多くは地元の人たちと見受けられた。それだけ日常的に愛されているお店なのであろう。予約してあった席のテーブルには、真ん中にフォンデュ鍋が置かれていた。その存在感たるや、これから始まる食宴へのファンファーレを奏でているようだ。大皿のサラダを加えて「フォンデュ・シノワーズ」を2人前注文する。
大皿の牛肉に感激!

テーブルに届いた牛肉を見て、その鮮やかな色に感動する。真っ赤な牛肉が、皿の上に整然と並べられている。2人前で肉は600グラムだった。そこに、タルタルソース、カレーソース、サウザンアイランドソースの3種ソース、付け合わせのフライドポテトと美味しそうなパンが届く。これだけでテーブルの上は“所狭し”とばかりの大にぎわいである。フォンデュ鍋の中には、コンソメ風スープが入っている。中を覗くと出汁を取るための、昆布やキクラゲなどが入っているが、その味の正体は正直見ただけでは分からない。
食べてみた!美味しかった!

専用のフォークに牛肉を刺して、鍋の中に沈める。日本の牛肉しゃぶしゃぶの場合は、それこそ“シャブシャブ”と2~3回湯がけば食べることができるのだが、「フォンデュ・シノワーズ」の牛肉はやや厚い。時々フォークごと取り出してチェックしてみるが、火が通るまで1分はかかっただろうか。最初は、タルタルソースで試してみたが、肉の風味に出汁の風味が重なり、それをソースの旨みが包み込む。何とも絶妙な共演だ。熱い肉にソースの冷たさが丁度よい。肉の味をより楽しむため、3種のソースに加えて、塩とコショウをお願いした。もちろんソースもいいが、牛肉そのものの味を塩とコショウが引き出してくれる。これもなかなか美味しかった。
スープもしっかり堪能

驚いたのは、スイスの地でも、肉を食べ終わった後に楽しみが残っていたことだ。日本での「しゃぶしゃぶ」同様に、せっかく出た肉のエキスを見逃す手はない。スタッフが深い皿を用意してくれていて、鍋のスープを楽しむ第2ステージが始まった。結構、こってりとしているという印象だが、数々の風味が重なり合って、何ともぜいたくな味に仕上がっている。時おり、パンを浸してみたりしながら、特製のスープを堪能した。日本円にして7,000円ほどのコースだった。
ビールにもワインにも合う
この「フォンデュ・シノワーズ」が、スイスの地でなぜ始まったのか、その由来は定かではない。しかし、オイル・フォンデュが、熱した油の中に牛肉を入れるスタイルであることを思えば、それをスープに替えてみたということだろうか。ちなみに「フォンデュ・シノワーズ」は、ビールにも、白ワインにも、赤ワインにも合った。この一品だけで、最後のスープまで十分に食事を満喫できる、そんな郷土料理だった。
定番のチーズ・フォンデュとミート・フォンデュに次ぐ、“第3のフォンデュ”とも言えるフォンデュ・シノワーズとの邂逅。やはり、世界は広く、そこにある“食”は深い。
【東西南北論説風(610) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】