実は深刻な“正捕手”問題、明日のドラゴンズへチーム作りの大きな盲点とは?
ドラゴンズを率いて3年目の立浪和義監督は、セカンドとショートの二遊間を固めることを最重要課題として戦ってきた。それは同時に守りの軸となる“センターライン”を確立する狙いなのだが、つい二遊間に目が向いてしまう中、深刻な遅れが生じているのが、ホームベースを守る“正捕手”の存在である。(敬称略)
複数の捕手“交代制”
2024年ペナントレース、開幕戦から2試合は、正捕手に最も近いと見られた木下拓哉がスタメンマスク、しかし3試合目には代わって宇佐見真吾が先発した。その後、加藤匠馬を加えて、スタメンのキャッチャーは目まぐるしく変わる。木下は2軍落ちも経験した。
ここまで111試合を終えたところで、スタメンマスクの出場数を見てみると、最も多いのが木下で48試合。次いで加藤32試合、宇佐見24試合、そして5月に1軍に昇格した石橋康太の7試合となっている。このように、今季も残念ながら“正捕手”は決まっていない。(成績は8月18日現在)。
二遊間は固まりつつある
立浪監督自身が内野手のショート出身ということもあって、ドラゴンズの二遊間を誰が守るのかは大きな注目を集めてきた。監督1年目のオフには、阿部寿樹と京田陽太という、シーズン開幕戦で二遊間を守った2人をトレードで放出した。さらにドラフト会議では、2年続けて“即戦力”として期待する内野手を数多く獲得した。明らかに立浪監督の二遊間へのこだわりが反映されていた。
それでも「これだ」という二遊間コンビがなかなか決まらなかった中、ようやくセカンドに田中幹也、ショートに村松開人という、将来へ期待が持てる20代前半の若き二遊間の姿は見えてきた。そうなると気になるのが、センターラインの要(かなめ)キャッチャーなのである。
石橋“正捕手”への期待
次世代の“正捕手”候補として竜党の間でも衆目一致するのが、石橋康太である。2018年(平成30年)のドラフト4位。入団1年目の夏に、1歳年上の清水達也と“10代バッテリー”を組んでスタメン出場し、三塁打を放つなど活躍してチームも勝利した。「将来10年以上、ドラゴンズのホームベースは大丈夫」と球団フロント幹部が大喜びしていた記憶もある。
しかし、石橋もすでに6年目を迎えた。2023年の出場数39試合が自己最多というのだから、その成長スピードは遅いと言わざるを得ない。活躍しても継続的に起用されないという現実もある。侍ジャパンの井端弘和監督に選ばれて、日本代表チームも経験しただけに「なぜドラゴンズでは?」と、つい首を傾げてしまう。
偏った捕手の年齢層
立浪ドラゴンズは、アリエル・マルティネス、そして郡司裕也という2人の「捕手」を放出した。現在、北海道日本ハムファイターズで活躍中だが、2人共“捕手以外”でのスタメン出場となっていて、ドラゴンズに残っていたとしても、マスクをかぶり続けていたかどうかは分からない。しかし、チームの捕手全体のバランスは常に考えなければならない。
木下、宇佐見、そして加藤の3捕手は全員が30代であり、一方で、味谷大誠と山浅龍之介は高卒3年目と2年目の若さである。その中間に位置するのは石橋ただひとり、しかし、現在は1軍登録を抹消されて2軍で調整中である。一体ドラゴンズは、将来の正捕手を誰に託すのだろうか。
優勝時には“正捕手”あり
ドラゴンズがリーグ優勝した時には必ず“正捕手”が存在した。日本一にもなった1954年(昭和29年)には野口明。讀賣ジャイアンツの10連覇を阻止して20年ぶりにリーグ優勝した1974年(昭和49年)には“マサカリ打法”の木俣達彦。近藤貞雄監督の“野武士野球”で優勝した1982年(昭和57年)には中尾孝義。打って守って走れるキャッチャーで、シーズンMVPにも選ばれた。
星野仙一監督時代の2度の優勝を支えたのは中村武志。そして、落合博満監督が築いた黄金時代には、谷繫元信がマスクをかぶり続けた。強いチーム作りに“正捕手”は欠かせない。それは、二遊間が先か、正捕手が先かという問題ではなく、センターラインを固める上で同時に必要なのである。
正捕手という存在は、少なくとも“すい星のように”いきなり登場してくるものではない。その気になって育てることこそ重要である。このままでは、ドラゴンズは次のシーズンも、日替わりマスクになりそうな可能性がある。内野手の数だけがやたら目立つ中、ここまでのチーム作りの歪(ひず)みを、いよいよ修正していかなければいけない時期に差しかかっている。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。