ドラゴンズ初のOB戦にファンは歓喜!懐かしさの中で願うのは立浪竜の奮起
初めての開催であることに驚く。真夏の名古屋に、中日ドラゴンズかつての名選手たち59人が集まって、OB戦に臨んだ。88年の長い歴史を持つ球団として初めての試みであり、チームをずっと応援してきている長年のファンの立場としては、とにかく楽しみなイベントである。購入した貴重なチケットを手にして、2024年7月25日夕刻、バンテリンドームに駆けつけた。
登場!権藤監督と谷沢監督
試合は、白いユニホームの昇竜チームと、青いユニホームの強竜チームに分かれて、7イニング制で行われた。総監督は、選手としても名スカウトとしても竜の歴史を支えた法元英明さん。昇竜チーム監督は権藤博さん、新人投手としてシーズン35勝を挙げたエースのひとりである。そして、強竜チーム監督は谷沢健一さん、アキレス腱のケガを克服して2度にわたって首位打者を獲得した名スラッガーである。その2人の下に懐かしい面々が集結した。さらに審判団も全員が審判OB、そして、ナゴヤ球場の名グラウンドキーパーだった永田向平さんの元気な姿もあった。
“野武士野球”の竜戦士
スタメンは強竜チームから発表された。アナウンスされた「1番ショート」は荒木雅博さん。それに続く「2番セカンド」として、正岡真二さんの名前が紹介された瞬間、何だか目頭が熱くなった。懐かしい。メジャー選手だったフェリックス・ミヤーンの打撃スタイルを真似てバットを短く持つ“ミヤーン打法”が代名詞だった。
対する昇竜チームの1、2番は、田尾安志さんと平野謙さんで言うことなし。1982年(昭和57年)リーグ優勝した“野武士野球”のメンバーである。小松辰雄さんと中尾孝義さんの胴上げバッテリー、4番に座った宇野勝さん、セカンドを守った上川誠二さんらと共に、スタンドからの拍手もひときわ大きかった。
岩瀬さんと川上さんが“代打”
OB戦ならではの“演出”は盛りだくさんだった。先発投手は、鈴木孝政さんと小松辰雄さん。快速球投手と剛速球投手、新旧のOB会長でもある。どちらも1回途中での交代はご愛敬だった。前人未踏の407セーブを挙げた岩瀬仁紀さんが代打で打席に立った。岩瀬さんは愛知大学リーグ時代に歴代2位のヒット数を誇る。それに対抗して、ドラゴンズ黄金時代のエースだった川上憲伸さんも打席に立った。
権藤さんと谷沢さんの“監督対決”も見応え十分。かつて田尾選手との衝撃トレードで西武ライオンズ(現・埼玉西武ライオンズ)から仲間入りした杉本正さんと大石友好さんのバッテリーも味のある起用。そして、マウンドに堂上照さん、レフトに堂上剛裕さんという珍しい“父子竜の共演”。そのひとつひとつについて思い出を語るだけでも、とても時間が足りない。
ミラクル投法も復活!
松本幸行(ゆきつら)さんの登場は感激だった。松本投手は、文字通り“ちぎっては投げちぎっては投げ”の小気味いいピッチングで知られて、松本さんが投げるゲームは、とにかく終わるのが早かった。讀賣ジャイアンツの10連覇を阻止してリーグ優勝した1974年(昭和49年)には、20勝投手となった。現役時代と同じ「21」の背番号をつけた松本さんが投げたのは3球だけ。しかし、キャッチャーからの返球を受け取ると、打者が構える間もないほど、すぐに投げるスタイルは健在で、嬉しくなった。
往年の名プレーは健在
きらりと光るプレーも多かった。1999年(平成11年)リーグ優勝時のMVP、野口茂樹さんをはじめ、120キロを超える、キレのいい球を投げる元投手も多かった。田尾さんはじめ、往年のバットコントロールが健在の元打者も数々いた。
そんな中、初のOB戦でMVPに選ばれた、英智さんの守備は魅せた。ホームへのワンバウンド送球や、レフト線に落ちようかというフライへのスライディングキャッチなど、現役時代さながらの好守を連発して、スタンドの喝采を浴びた。納得のMVPである。
『燃えよドラゴンズ!』への思い
5回の終了時には、ペナントレース時と同じように『燃えよドラゴンズ!』の球場合唱があった。チアドラゴンズもOGメンバーが加わって、にぎやかに盛り上げたが、できることならば、この歌が最初に発表された1974年の優勝時の歌詞で歌いたかった。
特に「にっくきジャイアンツ、息の根とめて優勝だ」という下りである。これこそ、ドラゴンズの原点だと思っている。特に、その年の優勝メンバーがグラウンドにいるのだからなおさらである。「代打男の江藤君」と歌詞に歌われた江藤省三さんは、残念ながら打席に立たなかったけれど。
セレモニーでの感動スピーチ
OB戦は、谷沢監督率いる強竜チームが、5対3で昇竜チームに勝った。そんな勝敗は二の次、ゲームセットと共に、両チームのOB選手を温かい拍手が包み込んだ。それは公式戦とはひと味違う、どこか柔らかなものだった。試合後のセレモニーで挨拶に立った法元総監督が、杉下茂さんはじめ、中利夫さん、高木守道さん(※「高」は「はしごだか」)、そして星野仙一さんら、今は亡きOBの名前を挙げて、追悼されたことには大いに感激した。
立浪竜への叱咤激励
そんな法元さんも、権藤さんも、OB会長の小松さんも、それぞれが、現在の立浪ドラゴンズへの叱咤激励を口にした。権藤さんにいたっては「ドラゴンズは弱いから、ファンの皆さん、何とかしてやって下さい」と呼びかけたほど。“歴史”があるからこそ“現在(いま)”があり、“現在”があるからこそ“歴史”を語ることができる。チームは後半戦に備えて、すでに甲子園入りしていたが、事前の収録でもかまわない、立浪和義監督が大型ビジョンに登場してメッセージを送る演出はできなかったのだろうか。この夜ドームに集まったのは、OBの皆さんもスタンドの私たちも、ドラゴンズ愛に溢れる人たちばかり。翌日からのシーズン残りの戦いに向けて、絶好のアピールの場になったと思うのだが・・・。
ドラゴンズにとって初めてのOB戦は、ファンの心にも温かい炎を点して、楽しく幕を閉じた。多くのファンが詰めかけた画期的なイベント、いずれ2回目も開催されるかもしれないが、その時までには、現役チームが優勝ペナントを勝ち取って、花を添えてくれていることを願うばかりである。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。