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「衝撃の代打」ベンチ采配の空白と疑問~検証・与田ドラゴンズ3年の光と影(後)

「衝撃の代打」ベンチ采配の空白と疑問~検証・与田ドラゴンズ3年の光と影(後)

それは七夕の夜に起きた

その“代打”には衝撃が走った。中日ドラゴンズ与田剛監督2年目の夏、2020年7月7日、本拠地ナゴヤドーム(現バンテリンドーム)での東京ヤクルトスワローズ戦、延長10回裏のことだった。2死満塁、一打逆転サヨナラのチャンスで、打順が岡田俊哉投手に回った時、与田監督が主審に告げた代打の名前は「三ツ間」だった。三ツ間卓也は投手、「投手の代打に投手」という異例の起用だった。実は、そこまでに野手を使い果たして、ベンチには誰も残っていなかったのだ。この采配は大きな批判を受けることになった。与田ドラゴンズ3年間における“痛手”とも言える。なぜなら、この采配によって多くのファンの心に疑問符が芽生えてしまったからだ。ベンチは大丈夫なのか?

「なぜ?」が多かったベンチ采配

ドラゴンズファンからの疑問は、それだけに留まらなかった。活躍した翌日にスタメンを外れる選手、その一方でヒットが打てなくても使われ続ける選手、投手交代のタイミング遅れなど、「なぜ?」の大合唱が続いた。その采配の責任を与田監督ひとりに求めることは酷かもしれない。ベンチにはヘッドコーチ以下、多くのスタッフがいて監督をサポートする。さらにベンチのバックヤードには球団フロントがいる。「投手の代打に投手」この試合では、野手を使い果たしたことと共に、登録選手の枠がまだ空いていたことも指摘された。その枠に野手を補充しておかなかったことも含めて“誰かが気づけばいい”ことである。ベンチ内、そしてフロント含めた球団内のコミュニケーション不足も露呈された。

伊東ヘッドへの期待と現実

「サンデードラゴンズ」(C)CBCテレビ

ヘッドコーチの役割にもふれたい。与田監督は自らの参謀として、伊東勤氏を選んだ。侍ジャパンで一緒にコーチをやった時に、野球観で意気投合したのだと就任時には伝えられた。伊東氏はドラゴンズファンには特別な思いのある野球人である。現役時代は西武ライオンズ(現・埼玉西武)の正捕手として、パ・リーグ優勝14回、日本一8回という栄光にチームを導き、2004年の日本シリーズではライオンズの新監督として、落合博満監督の前に立ちはだかった。その後に千葉ロッテマリーンズでも監督をつとめた百戦錬磨の指導者。与田と伊東という“強力バッテリー誕生”にファンは喜び「伊東ヘッドがいれば安心」と思ったものだ。いつの頃からかそれが「伊東ヘッドがベンチにいるのに、なぜ?」と変わっていった。残念な、そして今なお大いなる疑問である。

チームに必要だった厳しさ

「サンデードラゴンズ」(C)CBCテレビ

「驚かせるチームにしたい」2018年の就任会見で、こう抱負を語った与田監督。プロ野球の選手ならではのプレーを見せることでファンに「すごいな」と思ってもらいたいという意味だと説明した。ドラゴンズファンのひとりとして「ワクワクさせるチームにすること」と解釈し、明るい夢を描いた。
「カープに入ったらレギュラーになれるのか?」ドラゴンズブルーのユニホームに23年ぶりに袖を通した与田監督は、選手たちに真っ先にこう呼びかけた。実にシンプルで、それだけに厳しい言葉だった。甘えを一切許さないメッセージだったはずだ。しかし、春季キャンプなどは休日数が増えて、日々の練習時間も決して長いとは言えない現実が横たわっていた。言葉だけが浮遊してしまった。初志はいつのまにか日常の現実の中に埋没してしまった印象は否めない。

エース大野を覚醒させた与田監督

「サンデードラゴンズ」より大野雄大投手(C)CBCテレビ

与田体制では、一方で数多くの中堅選手が覚醒した。代表格は、背番号「22」大野雄大投手だろう。与田監督の就任前2018年は勝ち星なし。それが一気に復活して、沢村賞の栄誉まで手にした。落合博満監督が率いた黄金期のエース吉見一起さん以来“竜のエース”の称号を得た。野手ならばキャプテンを任されてリーダーの自覚が芽生えた高橋周平選手だろう。福敬登、祖父江大輔そしてライデル・マルティネス、この3投手による“勝利の方程式”の確立、12球団屈指と言われる投手陣の整備は讃えられる功績である。阿部寿樹選手や井領雅貴選手ら中堅野手の活躍も与田采配が生んだものだ。脱皮し切れずにいた多くの選手たちが表舞台で活躍したことは3年間の大きな収穫だった。一部の球団のような大型補強なしでも、2020年には8年ぶりのAクラスを勝ち取った。井領選手のように球団を去るメンバーもいるが、多くの選手たちは新監督の下で来季へと向かう。

「サンデードラゴンズ」より与田剛監督(C)CBCテレビ

ドラゴンズは与田監督の後任として、“ミスター・ドラゴンズ”3代目と呼ばれるOBの立浪和義さんに白羽の矢を立てた。新しい風が吹き始めると、つい注目はそちらに行きがちだが、過去の反省と現状の認識について、今季85周年を迎えた伝統ある中日ドラゴンズという球団として忘れてはならない。力強く天に昇ろうとする竜の姿に、私たちファンは2022年シーズンに向けても変わらず熱い声援を送りたい。 
                                  
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲  愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。

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