「電子投票」はなぜ消えた?大阪府四條畷市が8年ぶりの再導入。その課題とは?
来月15日に公示される大阪府四條畷市の市長選挙では、全国で8年ぶりとなる「電子投票」が導入されます。かつて効率化と利便性を目指して始まったこの仕組みは、なぜ多くの自治体で廃止されてしまったのでしょうか?そして今回の試みの意味、克服すべき課題とは何でしょうか?11月21日放送の『CBCラジオ #プラス!』では、CBC論説室の石塚元章特別論説委員が詳しく解説しました。
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日本の通常の選挙では、支持する候補者名や政党名を手書きで記入します。
一方、電子投票はこれをデジタル化した仕組みで、タッチパネルやボタン操作で簡単に投票が可能です。
法律上では「電磁的記録式投票制度」と呼ばれます。
電子投票には、手書き方式と比べていくつかの利点があります。
まず、「書き間違いがない」ことです。この点から「無効票が発生しない」という大きなメリットが得られます。
曖昧な票や無効票がなくなる
例えば、候補者に山田Aさんと山田Bさんがいる場合、投票用紙に「山田」とだけ記入されると、どちらの候補者への票かわからなくなります。
このような場合、日本の選挙では「按分」という手法が採用されます。
具体的には、明確に「山田Aさん」「山田Bさん」と記された票の割合に基づき、曖昧な票をそれぞれに割り振る仕組みです。
「山田Aさん」と「山田Bさん」の得票率が6:4の場合、曖昧な票も同じ6:4の比率で分けられます。
電子投票では、タッチパネル上に候補者名が明確に表示されるため、このような紛らわしい票や無効票が発生しません。
インターネット投票と電子投票の違い
また、電子投票には開票の迅速化という大きな利点があります。
投票後のデータは記録媒体に保存され、開票所に運ばれてコンピュータで集計されるため、手作業で票を数える必要がありません。この仕組みにより、選挙結果が短時間で明らかになる点が注目されています。
さらに、手書きでの投票が難しい人への配慮が行き届くのも電子投票のメリットのひとつです。例えば、手の障害などで手書きが困難な方もタッチパネルやボタン操作で容易に投票が可能です。
電子投票は「インターネット投票」と混同されることもありますが、両者には明確な違いがあります。
インターネット投票はオンライン環境があればどこからでも投票できるのに対し、電子投票は投票所に実際に足を運ぶ必要があります。
インターネット投票は電子投票の一種ではあるものの、さらに進んだ形態といえます。
2016年を最後に途絶えた電子投票
日本では、2002年に「電子投票特例法」が施行されました。この法律により、市長選挙や町長選挙、市議会や町議会議員選挙といった地方自治体の選挙において電子投票を導入することが可能となりました。
同年、岡山県新見市が日本で初めて「市長選挙」および「市議会選挙」で電子投票を採用。この動きを皮切りに、全国10の自治体で計25回にわたって電子投票が実施されました。
しかし、電子投票の実施は2016年を最後に途絶えています。
この年、青森県六戸町で行なわれた町議会補欠選挙が最後となり、それ以降、電子投票は日本で実施されていません。
これは単に技術の問題だけではなく、いくつかの課題やトラブルが重なったためです。
電子投票に対する懸念と民間企業の撤退
2003年に岐阜県可児市で実施された5回目の電子投票では、大規模なトラブルが発生しました。
サーバーの過熱が原因でシステムが停止し、投票が大幅に遅延。投票に訪れた市民は、機械の不具合により投票できない事態に直面し、1,000人以上が待機を余儀なくされました。
中には1時間以上待たされる人や、投票を諦めて帰る人もいたといいます。
さらに、電子投票専用機器の操作ミスも問題を深刻化させました。
現場でトラブル対応をしていた開発会社の職員が、誤って投票を行なってしまうというミスを犯し、結果として投票総数が実際の投票者数を超える事態が発生したのです。
これを受けて裁判が起こされ、初めは「選挙結果に問題なし」との判断が下されましたが、この結論に納得しない住民が異議を申し立て、最終的に最高裁判所まで争われることに。
2005年、最高裁は「選挙無効」の判決を下しました。
電子投票への懸念が広がった結果、専用機器を開発していた民間企業も、ビジネスとして成り立たないと判断し、撤退することとなりました。
条例作成後も使用されず撤廃・凍結
また、日本は識字率が非常に高い国であることも、電子投票の導入が進まなかった一因です。
例えば、識字率が低い地域があるインドでは、政党のシンボルやマークを使って投票できる仕組みが整備されていますが、日本ではそのような配慮は不要です。
電子投票は人件費削減のメリットはあるものの、初期投資の問題もあります。
2016年の青森県六戸町での町議会補欠選挙を最後に日本の電子投票は終了。
電子投票を導入するための条例を作成した自治体でも実際には使用せず、撤廃したり、凍結したりするケースが増えてしまったのです。
未来の選挙への重要な一歩
2020年、日本政府は電子投票の運用指針を見直し、それまで専用機器を使用しなければならなかった電子投票に対し、タブレット端末などの汎用機器を使うことを認める方針に変更しました。
この改善により、電子投票の導入がより現実的になり、再び普及に向けた動きが活発化しています。
こうした「デジタル化」や、社会全体で進んでいる「働き方改革」の流れの中で、電子投票への関心が再燃し、導入に対する期待が高まっています。
来月行なわれる大阪府四條畷市の市長選挙での電子投票は、こうした変化において非常に重要な意味を持つケースと考えられます。
社会の変化と技術の進歩、そしてルールの見直しが進む中で、インターネット投票を含む新しい投票方法は、選挙の未来を形作る重要な一歩になるかもしれません。
(minto)