その車、魅力的につき~春の名古屋に降臨した「GRMNヤリス」に魅了された人たち

その車は、春を迎えた名古屋のイベント会場で、まばゆく“咲いて”いるようだった。岐阜から偶然やって来た車好きという19歳の男性2人組は、嬉しそうにこう語ってくれた。
「たまたま名古屋に遊びに来たら、吸い寄せられるように会場のブースに来てしまった。まさかここで、この車に逢えるとは思わなかった」 彼らの目の前には、TOYOTAの車「GRMNヤリス」があった。
サーキットで育った車
名古屋・栄で2025年(令和7年)3月に開催された「CBC 5チャン春祭り」の会場は、5日間の会期中、連日大勢の人たちでにぎわった。その中でも、ひときわ人気を集めたNTP名古屋トヨペットの車両展示ブースには、3月22日の週末土曜日「GRMNヤリス」がお目見えした。

世界ラリー選手権のノウハウを市販車に注ぎ込んだGRヤリス。それをドイツ北西部の森の中にあるサーキット「ニュルブルクリンク」で走らせて、さらにグレードアップしたものが「GRMNヤリス」である。「M」はマイスター、ドイツ語で「名人」「巨匠」を意味する。「N」はニュルブルクリンクの頭文字である。まさに「ニュルブルクリンクのサーキットを拠点に開発された名車」なのだ。日本国内にわずか500台しかない希少な車であり、この日ブースを訪れた車好きのファンは、写真を撮ったり、実際に運転席に座ったりして、貴重な出逢いを楽しんだ。
鍛え抜かれたボディー
コンパクトながら、車体のデザインには切れ味がある。とことんスピードを求めるサーキット生まれだけに、躍動感がそのまま表れているようだ。名古屋市内に住む50代の男性は、眩しそうに目を細めながら「これは体育会系の車だ」と感想を述べてくれた。プロのレーシングドライバーが試乗してエンジニアに感想を伝え、文字通り何度も“壊しては直す”繰り返しによって、“鍛え上げた”ボディー。重心を車体の下部に置くために、ルーフ(屋根)などは鉄ではなく、軽量のカーボンで作られている。岐阜から来た19歳の2人組も「“走る”という目的のために、この車があるようだ」と、第一印象を語ってくれた。

魅力的な運転席
まるで“航空機のコックピット”と表現されるのが、運転席である。実際に座ってみると、腰から臀部が座席にピタッと収まって、ほぼ微動だにしない安定感である。その上で、シートの素材が一般的なレザーではなく、人工素材の特殊な布製のため、運転中にドライバーの体が滑ったりしない。また、ナビゲーションが正面向きではなく、運転席の方に向けて斜めにセットされていることも特徴だ。これもまさに“コックピット”たる所以なのだろう。

ハンドルやギアなど、手で触るパーツが丈夫に作られていることに感激する人もいた。名古屋市の北東部に住む60歳の男性は、これまで12台ほど愛車を乗り換えてきたという車好きで、「GRMNヤリス」の運転席に座った感想をこう表現してくれた。 「自分が行った運転操作に対し、ちゃんと応えてくれる車だと感じる」
「この車で遊んでほしい」
走りについては“発進性”と“安定性”が注目される「GRMNヤリス」。会場で、訪れる人たちに応対していたNTP名古屋トヨペット「GR Garage小牧」マネージャー・近藤さんによると「乗り心地は決して良くない」そうだ。「それだけ“振り切った”車」なのだと、近藤さんは微笑む。だからこそ「この車で遊んでほしい。楽しんでほしい」と魅力を語る。全国に500台しかないだけに購入希望者が殺到していて、なかなか手に入らないのが現実だが、レンタカーとして乗ることができる機会がある。3時間9,900円で「GRMNヤリス」を運転できるとあって、愛好者の人気を集めている。「実際にハンドルを握って走り、その感想を私たちに聞かせてほしい」と近藤さん。プロのレーシングドライバーとエンジニアが“鍛えた”車を、さらに大きく“育てる”のは、第三者となる一般のドライバーという意味だと理解した。

「自転車の最も美しい姿は走っている時だ」。名作『路傍の石』や『真実一路』で知られる明治生まれの文豪・山本有三の言葉である。それはクルマとて然り、“走ってこそ”の自動車である。「GRMNヤリス」も走ることによって、さらに美しく“咲き誇る”。ハンドルを握ってアクセルを踏み込む時に、一体どんな楽しい世界がドライバーを待っているのだろうか。そんなひとときの“春の夢”にひたった暖かい週末の午後だった。
【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】