旬のサンマを食べた!黒潮の大蛇行も終わり、大ぶりの姿に舌鼓の“秋の味”

目の前にある焼き上がったサンマが訴えているようだ。「どうぞ食べて下さい。美味しいですよ」。もう待ちきれない。その匂いだけで白米を食べることができる、とまで言われるサンマの身に、すぐさま箸を突き立てた。
北からの嬉しい便り
猛暑の2025年(令和7年)8月も後半になって、北から嬉しい便りがもたらされた。サンマが豊漁だと言う。全国さんま棒受網漁業協同組合によると、今年ここまで水揚げされているサンマは、平均130から140グラムとのことだ。ここ数年の平均より20グラムほど大きいと言うから、これは嬉しいことだ。たしかに、今、焼き上がって皿の上に乗っている姿は、明らかに去年よりも大ぶりである。
水揚げ量は20分の1

“秋の味”の代表格であるサンマ、このところ深刻な不漁が続いてきた。外国船によって早めに獲られたり、地球温暖化によって稚魚が十分に成長しなかったり、泳ぐルートが変わったり、様々な要因が挙げられてきた。水産庁が発表している、ここ40年余りのサンマ水揚げ量のグラフを見ると、あらためて驚いてしまう。ピークは2008年(平成20年)の34万トン余りで、その頃はグラフが“高い山”を描いている。しかし、史上最低と言われた2022年(令和4年)は1万8,000トン、その落差は激しい。実に20分の1に落ち込んでしまったのだ。わずかずつ回復して1年前の2024年(令和6年)は4万トン弱だったが、まだまだ厳しい。その上、サンマの身がやせ細っているのも、ここしばらくの傾向だった。
黒潮の大蛇行が終わった

それがなぜ今年、一部の産地で「10年ぶり」とまで言われる評価をもたらしたのだろうか?それは、先に終息宣言があった「黒潮の大蛇行」と関係があるという。気象庁は、8月29日に、太平洋側を流れる黒潮が南の方に大きく曲がる大蛇行が「4月に終息した」と発表した。過去にも「黒潮の大蛇行」はあったが、今回は大きく違っていた。長かったのだ。2017年(平成29年)8月に発生し、実に7年9か月続いていたのである。
魚たちにとって好環境
「黒潮の大蛇行」が終わると、沖合の海水温が下がる。海水温が下がると、プランクトンなども増えて、それを餌とする魚たちにも適する環境が生まれる。特に、今回の「黒潮の大蛇行」では、海の深いところまで海水の温度が上がり、サンマなどの魚が海遊できなかったと分析されていた。その環境がようやく変わり、魚たちの成長にも“追い風”が吹き始めた。産卵やふ化もしやすくなるなど、将来への展望も開けた。
今年のサンマを食した!

目の前のサンマに戻る。筆者は、いつもサンマを背の部分から食べ始める。背骨付近に差した箸を横に滑らせて身を取り、一気に口へ運ぶ。柔らかい。ホクホクとして、その柔らかさに思わず目を閉じる。メインは最も好きな腹の部分だ。これをワタと一緒に頬張る時、サンマとの出合いは“至福の瞬間”を迎える。濃厚な味だ。ここでいったん、箸休めとして、醤油をかけた大根おろしをはさむ。そして裏側の腹に進む。サイズが大ぶりなだけに、身もワタも食べ応え十分なことが嬉しい。こうして今季最初の“サンマ宴”は終わった。ご馳走様でしたと手を合わせる。
しかし、水産庁によると、サンマの水揚げ量は去年並みだそうだ。サイズこそ大きくなったものの、それを楽しめる時間は短そうだ。心して“秋の味”を楽しまなければならない。厳しい残暑が続く中、食卓には秋が訪れている。
【東西南北論説風(621) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】