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半世紀ぶり日本からのノーベル平和賞が突きつける、核兵器廃絶への重き矛盾

半世紀ぶり日本からのノーベル平和賞が突きつける、核兵器廃絶への重き矛盾
CBCテレビ:画像『写真AC』より「広島の原爆ドーム」

吉報が飛び込んできたのは、例年以上に遅すぎる秋の気配がようやく日本列島に広がり始めた、2024年(令和6年)10月中旬だった。70年近くの長きにわたって、核兵器をなくすことを訴え続けてきた日本の団体に、ノーベル平和賞が贈られることになった。

日本からは過去に1度だけ

ノーベル平和賞は、国際紛争の解決や人権を守る活動などに尽くした人や団体に贈られる。1901年に、文学賞や自然科学賞などと共に、ノーベル賞が始まった時からの歴史ある分野、123年の歴史を持つ。日本からは過去に1度だけ、1974年(昭和49年)に、核拡散防止条約(NPT)に署名するなど平和に貢献したとして、元総理大臣だった佐藤栄作さんが受賞した。以来、半世紀の歳月を経て、日本から久しぶりの受賞となった。

受賞する「被団協」とは?

CBCテレビ:画像『写真AC』より「長崎の原爆の爆心地」

今回、ノーベル平和賞を受賞するのは「日本被団協」である。正式名称は「日本原水爆被害者団体協議会」、1956年(昭和31年)に結成された。広島や長崎で原爆の被害を受けた人たちで作る団体であり、被害者にとっては唯一の全国組織となっている。国の内外に対して、核兵器の廃絶を訴えると共に、被害者に対する国の賠償を求めるなどの活動を続けてきた。

今だからこその授賞理由

今回の授賞に至った理由は何だろうか。ノーベル委員会によると、日本被団協が「核兵器のない世界の実現に向けて努力してきたこと」「核兵器が二度と使われてはならないと、証言を通して示してきたこと」が理由として挙げられた。今や「ヒロシマ」「ナガサキ」と共に「ヒバクシャ」という言葉も、国際的に通じる“カタカナ用語”になっている。今、ウクライナや中東などの紛争地では、核兵器を持つ国が争いに関わっている。アジアでは北朝鮮による脅威もある。こうした国際情勢の中、唯一の戦争被爆国である日本から、ノーベル平和賞が選ばれたことは、大きな意味を持つ。

過去にはオバマ米大統領も・・・

CBCテレビ:画像『写真AC』より「広島平和記念公園の教師と子どもの碑」

ノーベル平和賞はこれまでも、核に関して、核軍縮や核の不拡散に貢献した授賞があった。2009年(平成21年)には、「核兵器のない世界」を訴えた米国のオバマ大統領が、そして2017年(平成29年)には「核兵器廃絶キャンペーン」の活動が、それぞれ平和賞に選ばれた。オバマ氏はその後、被爆地である広島も訪問した。今回、ノーベル委員会は「現代の核兵器は、文明を破壊しかねない」と警鐘を鳴らし、また「日本の若い世代が、被爆者の経験とメッセージを受け継いでいる」と、未来に向けて平和の大切さを評価した。くしくも、来年は、広島と長崎に原爆が投下されて21万人余りが亡くなってから、ちょうど80年となる。原爆投下80年を前にしたノーベル平和賞の意義は大きい。

日本が抱える矛盾

しかし、手放しで喜んでばかりいられない複雑な現実がある。それは今の日本が抱える大きな矛盾である。世界で唯一の戦争被爆国の日本は、外交などの場面で世界に対して「核兵器のない世界」実現を訴えている。その一方で、国連が2017年に採択した「核兵器禁止条約(TPNW)」への署名と批准をしていない。核兵器を保有する国は、ひとつも参加せず、米国ももちろん非参加である。米国の“核の傘の下”で、ある意味“守られている”日本は、こうした禁止条約に参加できない立場にある。

オブザーバー参加も困難

同じ、第二次世界大戦の敗戦国であるドイツは、オブザーバーとして核兵器禁止条約会議へ出席しているが、日本は、義務のないオブザーバーという立ち位置ですら関われないでいる。「核兵器のなき世界」を訴えながら「核兵器禁止条約」には参加できない矛盾、被爆国ニッポンが世界に発信する平和のメッセージも、今ひとつ弱い印象は否めない。

半世紀ぶりの日本からのノーベル平和賞、その意味を今一度かみしめて、国としてこの矛盾の解消に歩み出す。原爆投下80年を前にした授賞は、そんな歩みを強く後押ししているように思う。

【東西南北論説風(530)  by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】

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