自宅周辺の道路、制限速度が30キロになる?歩行者の事故防止へ新たなルール
時速30キロとは、どれくらいの速さなのだろうか。自転車だと一生懸命がんばってペダルをこぐくらい、走る場合は全力疾走か。このスピードで車を運転していると、かなり緩やかに感じるかもしれない。私たちの周りにある「生活道路」の制限速度が、時速30キロに規制される。
制限速度30キロに
警察庁は、路地など幅の狭い道路での車と歩行者の交通事故を減らすため、最高速度を現在の時速60キロから30キロへと引き下げる方針を決めて、道路交通法施行令の改正案としてまとめた。手続き上の意見公募(パブリックコメント)も締め切られて、2026年9月からの実施に向けて、準備が進むことになる。
日常生活の道路に新規制
「生活道路」とは何だろうか?実は、はっきりとした定義がないというのが答えである。日本国内の道路は「高速道路」と「一般道路」に分かれているが、この「一般道路」の内、地域に住む人たちが、通勤、通学、買い物など日常生活で利用する狭い道路を「生活道路」と呼んでいる。高速道路は、最高速度が時速80キロから120キロ、一般道路は指定がなければ最高速度60キロ。今回はそこに「生活道路」という項目を増やして、法定速度を新設する。
全国の7割が対象になる
すでに制限速度30キロという道路は身の周りにある。警察庁は、2011年(平成23年)から「ゾーン30」という取り組みをしていて、例えば学校周辺などの道路について、最高速度を時速30キロに規制している。車種によっては、車を運転していると「30キロ規制区域に入りました」と、車内にガイダンスが流れるので、ご存知の方もいるはずだ。今回は、中央分離帯がない道路や複数の車線がない道路などに、この規制を拡げることになった。制限速度60キロという規制を、一気に引き下げ、時速30キロとする。全国の「一般道路」の総延長はおよそ122万キロメートルになる。今回30キロ規制の対象になる「生活道路」は、この内の87万キロメートル余りで、実に全体のおよそ7割にあたる。
幹線道路より事故は多い
歩行者の急な飛び出しに車が自動的に反応してブレーキをかける装置など、最近は車の安全装備も充実している。それもあってか、交通事故の件数はこの10年間で半分以下に減った。しかし、5.5メートル未満の道路で事故が占める割合は横ばい。2023年では、死傷者が発生した交通事故の内、5.5メートル未満の道路は、それより幅が広い道路に比べて、事故の件数がおよそ1.8倍と、ほぼ2倍近い。大きな幹線道路よりも、狭い「生活道路」での事故が目立っているのだ。
歩行者事故が多いニッポン
海外と比べるとどうなのだろうか。警察庁が発表した、国際道路交通事故データベース(IRTAD)2024年1月時点の資料によると、海外の国と比べても、日本は歩行者の事故が多い。事故の30日以内に死亡した歩行者の割合、欧米各国は、英国22.7%、米国17.4%、イタリア15.4%、フランス14.9%となっている。しかし、日本はというと36.0%とかなり高い。それだけ日本は住宅地を中心に“歩いて行動する”人が多く、また、こうした道路には歩道がないため、事故に遭いやすくなっているという日本独特の事情がある。
30キロ制限が基本に?
警察庁によると、時速60キロで走っている車が急ブレーキを踏んだ時、停止するまでに、そのまま走ってしまう距離は35メートル。しかし、時速30キロだと、10メートルほどで車は停止できる。時速60キロと30キロでは大きな差があり、それが今回の規制のベースになっている。この規制については、新たに標識などは設置せず「生活道路は最高速度30キロ」というルールを“基本ベースとして”、ドライバーへ周知徹底していくという。「時速30キロが当たり前」ということになのだろう。なお、すでに30キロなどの規制がある道路は、現状の速度規制が継続される。
2024年も夏休みがスタート。「生活道路」の規制はまだ先のことだが、交通安全に努めることは、今日からでもできる。交通事故にくれぐれも注意して、この夏も過ごしてほしいという願いは不変である。
【東西南北論説風(508) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】