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島国ニッポンを取り巻く国際社会の緊張、増え続ける「領海侵犯」と「領空侵犯」

島国ニッポンを取り巻く国際社会の緊張、増え続ける「領海侵犯」と「領空侵犯」
CBCテレビ:画像『写真AC』より「護衛艦(イメージ)」

沖縄県の南西諸島の緊張が続く。尖閣諸島の所有権をめぐる日中の対立を表すかのように、中国船が領海のすぐ外側にある「接続海域」を通航する回数も増えてきた。「領海侵犯」と「領空侵犯」それぞれの違いと、日本を取り巻く国際情勢の現状について解説する。

「領海侵犯」とは?

私たちがよく耳にする「領海」とは、その国の海岸線から12海里までと定義されている。1海里は約1.8kmなので、周囲およそ22kmが「領海」である。その海に、相手国の同意なくして侵入し“何らかの活動をする”ことを「領海侵犯」という。ただし、この「領海侵犯」という言葉は、法律用語ではない。実はメディアによる用語である。

外国漁船の違法操業

国際法では、他国の領海であっても、その国のルールや安全を侵さなければ“通航する”ことは認められている。害が無い通航ということで、法律的には「無害通航権」と言うが、そうではない侵入のことを「領海侵犯」と呼ぶようになった。外国漁船が、日本の領海に魚を獲りに来る“違法操業”が、分かりやすい例であろう。

海上保安庁による警告

CBCテレビ:画像『写真AC』より「護衛艦(イメージ)」

この「領海侵犯」には海上保安庁や水産庁が対応する。ただし、軍艦に対しては海上自衛隊である。海上保安庁は、日本の領海内で活動している外国船を見つけた場合、旗、光、汽笛や無線スピーカーなど音声によって、停船や退去命令を出す。悪質な場合は、拿捕や強制退去もある。ただ、尖閣諸島についてはデリケートな外交問題でもあるため、中国の漁船が違法操業している場合も、退去命令に留めているという。

「領空侵犯」とは?

「領海侵犯」に対して「領空侵犯」は、国際法で定義された違法行為である。「領空」は、国家が持っている領土や領海の上にある“空のエリア”のことである。そこを飛行計画などの“許可なし”で飛ぶことを「領空侵犯」と言う。国際法違反である。ただし、宇宙は別である。地上から100km以上離れた空間については「領空侵犯」にあたらない。人工衛星や宇宙ステーションが自由に活動しているのは、そのためである。

航空自衛隊による警告

CBCテレビ:画像『写真AC』より「航空自衛隊の戦闘機(イメージ)」

この「領空侵犯」があった場合、多くの国では空軍が対応するが、日本の場合は航空自衛隊である。目で見て確認が取れるまでは「UFO(未確認飛行物体)」と見なされて、確認後は「領空を侵犯している」という警告、さらに退去を促す。自衛隊法によると、無線の通告は「速やかに退去せよ」から「我の指示に従え」を経て「指示に従え」とだんだんその言葉が厳しくなっていく。

初めての「フレア(火炎弾)」使用

2024年(令和6年)9月23日、北海道の礼文島沖で、ロシア軍の哨戒機が3度にわたって、日本の領空に侵入した。自衛隊機は初めて「フレア(火炎弾)」と呼ばれる装置で警告した。金属の粉末を出して空中で燃焼させて、機体の周辺に熱と光を放ち、相手からの攻撃を避ける役割を持つ。防衛省によると、無線などによる警告に従わなかったため、今回は「フレア」を使用したと言う。「フレア」の使用は初めてのことで、領空侵犯に対する“最も厳しい対応のひとつ”、しかし日本政府は「武器の使用には当たらない」とコメントした。ロシア軍機は、そのまま去っていったが、警告に従わなかった場合は、強制着陸を命じることもあり、最終的にはミサイルによる撃墜までも認められる。それが国際法上での「領空侵犯」なのである。その意味で大変重い。

中国による初の「領空侵犯」

ロシアだけではなく、その1か月前の8月には、長崎県で、中国の情報収集機が日本の領空を侵犯した。中国による「領空侵犯」は初めてのことだった。侵犯の恐れのある外国機があると、警戒のため航空自衛隊が緊急発進(スクランブル)を行うが、2023年度は669回あったスクランブルの7割が、中国軍機が対象だった。今回はついに一線を越えての「領空侵犯」となったが、海だけでなく空についても、中国の脅威は増している。侵犯だけで済んでいる内はまだしも、数が増えれば、おのずと偶発的な衝突の可能性も増す。そのリスクこそが脅威である。偶然は時に、とんでもない悲劇をもたらす。

CBCテレビ:画像『写真AC』より「中国・ロシアの国旗(イメージ)」

ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、中東情勢、中国と台湾の緊張、米中対立など、国際情勢の現状は、島国ニッポンにとって決して他人事ではなく、密接に関係している。増え続ける「領海侵犯」や「領空侵犯」は、そんな空気を私たちに伝えてきている。衆議院総選挙がスタートしたが、防衛問題は重要な争点のひとつであり、差し迫った課題である。
         

【東西南北論説風(528)  by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】

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