東海道新幹線が全線ストップ、車内で5時間を過ごした体験と払い戻しの驚き
これまでニュースなどで見たことがある場面に、自分自身が“遭遇”することになった。東海道新幹線が事故で運転見合わせとなり、その車内で長時間を過ごす体験をした。
新幹線が住宅地で停まった
東京駅発博多行の東海道・山陽新幹線「のぞみ55号」に、始発の東京駅から乗車したのは、2026年(令和8年)6月19日の17時半だった。13号車の窓側席、週末に向けての金曜日夕方とあって、車内の座席はどんどん埋まっていく。暑い一日で疲れたこともあり、品川駅の前あたりから睡魔に襲われてウトウトし始めた矢先、列車が減速した。新横浜駅かと思ったら、そうではない。やがて列車は住宅地で停まってしまった。
運転見合わせの始まり
まもなく車内アナウンスが流れた。静岡県の浜松駅構内で、線路内に立ち入った人が新幹線と接触して車両が停止、これによって運転見合わせになっているとのことだった。その後、インターネットの情報などで、浜松駅を通過中の博多行き「のぞみ49号」が該当する列車だと分かった。車内の電光掲示板にも案内が流れ始める。「触車(しょくしゃ)」という言葉を始めて知った。専門用語のようで、一般にはあまりなじみはない。
新横浜駅のホームにて

しばらくしたら車両が動き始めたのでホッとしたが、それは甘い考えだった。新横浜駅の手前だったことから、とりあえず駅のホームまで移動するという案内放送が流れた。運転再開まで、まだまだ時間がかかるかもしれない。何せ駅を通過中の新幹線車両との接触なのである。新横浜駅に到着すると扉が開けられて、ホームとの間で自由に乗り降りできるようになった。高架の上などで停車するよりは、とてもありがたい。事前にミネラルウォーターのペットボトルは持ち込んでいたが、自動販売機へ飲み物を買いに走る人も多くいた。
東海道新幹線全線ストップ
手元には、文庫本も持っている。今村翔吾さんの『イクサガミ』その2巻目であり、ストーリーがますます面白くなってきたところなので、腹をくくって読書タイムに入る。しかし、なかなか集中できない。どうしても自分の乗っている列車の今後が気になる。いつ名古屋へ帰ることができるのか。スマホで書き込みを見ると、同じ境遇で先を走っている列車内にいる人、または、東京駅で列車に乗ることができない人など、それぞれの状況がリアルタイムで把握できた。東京駅は大混雑らしい。列車の運休も出始めていた。運行停止は東海道新幹線、東京と新大阪間の上下線全線となり、さらに山陽新幹線の一部区間にまで拡大していった。
細やかな車内放送
こうした状況で「情報が足りない」という苦情はよく聞いたことがある。しかし、この日、初めての体験だったが、JR東海による案内放送の回数は、とても数多く細やかだった印象だ。ほぼ15分おきには車内放送が流れた。「現在、警察と消防が現場に向かっています」「到着しました」「現在、車両の設備点検を行っています」「現場検証が始まりました」など内容は少しずつ変わる。しかし「運転再開までにはかなりの時間がかかるものと思われます」というフレーズだけは、なかなか変わらなかった。それでも、こういう時はとにかく情報がほしい。数多くほしい。ありがたい対応だった。
列車を下りていく乗客も
車内の乗客は、静かに待っている。しかし、停車して1時間、2時間と過ぎていく中、荷物を持って降りていく人の姿も出始めた。右隣に座っていた20代の女性も、何やら携帯電話で誰かと連絡を取り合った後に降りて行き、戻ってくることはなかった。代替手段を探したか、あるいは新横浜で宿泊することにしたのか。ホームに降りてみると、次以降の列車を待つ人もいたが、混乱はまったくなかった。ただ携帯電話のネットが繋がりにくくなった。「多くの方が利用されていて、Wi-Fiが利用しにくくなっております」との放送が流れた。
ようやくの運転再開へ
停車して3時間半ほど経った20時25分頃、これまでとは違った案内放送が流れた。
「設備の安全確認が終わり次第、運行を再開します。再開はおよそ20時45分頃の予定ですが、前後するかもしれません。ご了承下さい」
アナウンスの声もどこか明るいと感じるのは、それを受け止める側の気持ちもあるのだろう。先が見えたという喜びが、安堵の気持ちを運んでくれる。
払い戻しの案内放送

ゆっくりと車両が動き出した。20時45分を少し過ぎた頃だった。その後も、前を走る列車との時間調整もあり、時おり減速したり、停車したりしながら、列車は名古屋に向かった。名古屋駅が近づいた頃に、新たな案内放送があった。列車が2時間以上遅延した場合の払い戻しについてだった。遅延証明書の発行を求めて、駅では長蛇の列ができたという風景は、どうやら過去の話だった。「駅の窓口は混雑が予想されるので、後日ご都合よき時に最寄りのJR駅で払い戻しは可能」とのこと、期間も「今後1年間」という案内だった。時間的な余裕があり、ホッとする。
EXカードの便利さに驚く

EXカードを使ってインターネット予約したチケットはどうなるのか。その方法は、車内放送、そして、登録してあるアドレスにメールも届いた。EXカードの場合は、そのまま自動改札をタッチして「出場」すると、自動的に支払ったカードに払い戻し手続きが行われ「2~3日以内に返金される」とのこと。なかなかこういう機会には巡り合わないため、この手続きは知らなかった。何もしなくていいから便利である。
やがて「のぞみ55号」は、22時45分に名古屋駅のホームに到着した。予定より3時間半余りの遅れだったが、多くの運休が出た後続列車のことを考えると、帰り着くことができたことはありがたかった。
それから3日後、JR東海からメールが届いた。「4,500円を払い戻しました」との報告だった。特急料金分が返却された。車内で過ごした5時間余りは、決して短い時間ではなかったけれど、貴重な経験ができた思いがした。
【東西南北論説風(697) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】




