“令和の米騒動”の行方は?店頭から姿を消したコメ、新米が登場してどうなる?
猛烈な残暑の中、スーパーへ米を買いに行って、棚がガランと空いていることに驚いた人も多かったのではないだろうか。9月に入って、ようやく数こそ少ないものの、米の袋を目にするようになった。2024年夏から秋へのニッポン米事情を追う。
米が売り場から消えた
筆者もお盆明けの頃に、名古屋駅前のデパートなどを訪れたが、米の棚にはまったく商品がなかった。代わりに、保存の効くレトルトパックの米や餅などが置かれて、棚を埋めていた。米がいきなり姿を消してしまった理由、そこには数々の要因が重なっての“複合的な事情”があるようだ。
端境期に襲った地震
農林水産省によると、もともと毎年8月は、新米の出荷シーズンを前に、米の在庫が最も少なくなる時期だという。いわゆる「端境期」なのだ。しかし、今年そこに重なったのが、地震だった。8月8日に宮崎県の日向灘沖を震源とする地震が起きて「巨大地震注意情報」という、南海トラフ地震では初めての臨時情報が出された。水や保存食などの備蓄食料が売れる中、米も例外ではなかった。普段なら2キロ単位で買う人も、この時は5キロと多めに買うなど、米の消費が一気に増えた。その直後にやって来たのがお盆休みである。流通もストップして、産地からの米の量も少なくなった。
海外観光客の和食人気
さらに、今年に入ってからの米の需要の高まりである。農林水産省によると、6月まで1年間の米の需要は、全体で700万トンを超えて、前の1年間よりも11万トン増えた。10年ぶりの増加という。大きな理由はインバウンド、円高を追い風に海外から多くの観光客が日本にやって来た。せっかくだから“和食”を食べよう、米は必需メニューである。消費者物価指数でも、米が20年ぶりの上昇率を記録するなど、2024年は、日本国内で“米が食べられている”のである。
1年前の猛暑“後遺症”
そんな数々の理由に加えて、米不足の大きな理由は、夏の暑さである。予兆は1年前からあった。2023年は、観測史上で最高に暑い夏だった。この猛暑によって、米が大きな被害を受けた。農作物の収穫量を示す作況指数は、平年を100とするが、米については、新潟県が95、秋田県が97、そして愛知県が96と、全国で7つの県が「やや不良」となっている。いずれも“米どころ”である。実際、新潟県を主な産地とするコシヒカリも、米の粒が白く濁ったり、大きさや形がバラバラになったり、粒に亀裂が入ったりと、品質に大きな影響が出た。暑さに強い「新之助」などの銘柄への転換も図っているものの、1年や2年で解決する問題ではない。猛暑の“後遺症”が1年経って訪れている。
新米が登場し始めた
9月に入って、ようやく店頭に姿を見せ始めた米だが、今度は「値段が高い」という問題が出ている。以前は5キロ2,000円だったものが、3,000円ほどになっていることに驚かれた方も多いのではないだろうか。9月4日に、農林水産省が開催したコメ業界との意見交換会では、仲介業者から「まだ十分な量ではなく、新米が出回る前の端境期の値段を反映している」という説明があった。そのため、例年よりも高値で推移していて、「いずれは落ち着く」との見方が出ているが、2024年夏も1年前と同様の猛暑、さらに、新米収穫時を襲った台風による影響など、不透明な要素が多い。まだまだ安心はできないようだ。
「10月までには以前のように店頭に米が並ぶ」という農林水産省の言葉を信じたい一方で、「では値段は?」と問いかけたいのが本音。異常気象や自然現象は、“米”という大切なニッポンの主食にも影響を与え続けている。
【東西南北論説風(519) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】