ドラゴンズ温故知新!02「中継ぎ投手」編~藤嶋健人の闘志に感動した!
中日ドラゴンズは2020年に球団創設84年目を迎える。伝統あるその球団史は数多のスター選手に彩られ、熱き戦いの記録と記憶をファンの心に刻みつけてきた。筆者が独断で選んだ歴代ベストナインと現役選手を比較しながら、7年続くBクラスからの脱出に向けて、新たなシーズンへの期待と応援を届ける連載企画である。
第2回のテーマは「中継ぎ投手」。(敬称略)
投手分業制はドラゴンズの“風土”
ドラゴンズは「投手分業制」の先駆的チームと言える。そして、そこには2人の大物OBの名前が浮かぶ。権藤博と近藤貞雄だ。権藤は1961年(昭和36年)ルーキーとしていきなり35勝を挙げ、最多勝、最優秀防御率のタイトルに加えて、新人王、さらに沢村賞も受賞した。全ゲーム数のほぼ半数69試合に投げて投球回数は実に429回を超えた。ほとんど毎試合投げるため「権藤、権藤、雨、権藤」という言葉まで生まれた。しかし酷使によって肩を故障して投手生命は短かった。それを受けて、ドラゴンズの投手コーチとなった近藤は「先発完投型」から「投手分業制」へ時代は変わるといち早く発想を転換して、リリーフ投手の確立をめざした。1974年(昭和49年)20年ぶりのリーグ優勝は、その成果の結実とも言える。ドラゴンズの“チーム風土”である。
歴代ベストナインは「浅尾拓也」
ドラゴンズの歴史では数々の中継ぎ投手が活躍した。右投手では、鹿島忠、森田幸一、落合英二、左腕では、サムソン・リー、小林正人、高橋聡文(あきふみ)、そして入団当時の岩瀬仁紀らが浮かぶが、やはり球団史上で最高の中継ぎ投手は浅尾拓也だろう。最速157キロを記録したストレートとフォークボールを武器として、実に“小気味よい”投球だった。入団当初は先発投手として活躍、入団3年目の2009年には開幕投手をつとめた。しかし浅尾の真骨頂は、翌2010年からの「セットアッパー」という役割によって輝いた。落合博満監督率いるドラゴンズが球団史上初のリーグ連覇を果たす最初の2010年、浅尾は72試合に登板し、勝ち星12を加えたホールドポイント59を挙げて、初めて最優秀中継ぎ投手のタイトルを取る。翌年の登板はさらに増えて79試合、ホールドポイント52で2年連続のタイトルを獲得した。
ベストナイン選考理由
ドラゴンズの連覇は浅尾拓也なくして達成できなかったと言っても過言ではない。2011年はクローザーとして試合を締めくくることも多くなった。リーグ連覇を決めた横浜スタジアムでの試合、胴上げの瞬間にマウンドに立っていたのは浅尾だった。その年は18勝で最多勝のタイトルを取ったエース吉見一起を押さえて、浅尾がシーズンMVPに選ばれた。中継ぎ投手がMVPに選ばれたのは、現在までも浅尾だけである。名実共に日本プロ野球を代表する「中継ぎ投手」だった。
2019年シーズンのドラゴンズ、セットアッパーとしては、ジョエリー・ロドリゲスとライデル・マルチネスの“ロド・マルコンビ”、そして山本昌投手の背番号「34」を受け継いだ福敬登らの投手も好投を見せた。しかし、最もがんばったのは、3年目の藤嶋健人であろう。
苦難を乗り越えた藤嶋健人
藤嶋健人にとって、2019年は生涯忘れられないシーズンになるであろう。それは中継ぎ投手として“活躍”したと同時に、投手生命の危機から“復活”したシーズンだからだ。春季キャンプ直前に発覚した右手の血行障害、そして手術。しかし症状は改善しない。2度目の手術を受けたこの右腕に、誰がシーズン中でのマウンド復帰を期待したであろうか。
しかし、藤嶋は夏にはナゴヤドームのマウンドに帰ってきた。7月9日の広島東洋カープ戦で3分の1イニングを抑えて初ホールドを記録すると、その後、8月30日まで21試合連続無失点を続けた。この内の19試合が中継ぎでの登板だった。マウンドで溌剌と躍動する藤嶋にファンは大きな声援を送り続けた。
ファンが愛する藤嶋の笑顔
ドラゴンズファンは藤嶋健人が好きだ。それは彼の登板が場内アナウンスされた時の大歓声が証明している。その背景には、多くの地元ファンが彼を高校時代からよく知っていることがあるのだろう。愛知の高校野球名門校・東邦高校出身。1年生の夏から甲子園デビューをはたし、3年生の時にはエース兼4番打者として、そしてキャプテンとして、東邦の甲子園出場を実現する。最大7点差を大逆転した試合もさることながら、本塁打・三塁打・二塁打を放ち、次に安打が出れば「サイクルヒット」という大記録がかかった打席で、全力で走ったため安打ではなく二塁打となった時・・・二塁ベース上での照れくさそうな笑顔が忘れられない。そんな明るい藤嶋だから、ドラゴンズファンは彼の投球に沸き立つのだろう。そしてそれは、かつての浅尾拓也にも通じる魅力なのだ。
2020年シーズン展望
2019年のリーグ最優秀中継ぎ投手がドラゴンズを去った。ジョエリー・ロドリゲス、防御率1.64で41ホールド。マウンドに上がれば、まず間違いなく「0」でベンチに戻ってきた投手の抜けた穴は大きい。「鉄壁」とも言えた中継ぎ陣の一角が揺らいだ。しかし、若手投手陣を中心に中継ぎ投手候補の顔ぶれは多い。9回を任されるクローザーにつなぐ「8回は誰?」「7回は誰?」そして「ワンポイントは誰?」。どんな投手たちがそのピースにはまっていくのか、あえて予断を持たずに見守りたい2020年シーズン。ロドリゲスとは別の投手によって、「最優秀中継ぎ投手」のタイトルをドラゴンズが連続受賞することを願いたい。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。