「バチが当たらない?」美しい妹とブサイクな姉の女神を祀る「浅間祭」の“変”すぎる習わしとは
三重県伊勢市の山奥で、ひっそりと行われる「浅間祭(せんげんまつり)」。古くからその土地を見守る、姉妹の女神を祀る由緒正しきお祭りです。そんなお祭りの最中、変な化粧をした男たちが民家で歌い踊り、巨大な竹を支えながら山を登る?一見すると“変”なことだらけの「浅間祭」の実態と、そのお祭りに込められた熱い思いを「OMATSURIちゃん」コーナーで調査しました!
山奥の港町で行われる「浅間祭」
今回の舞台は、名古屋から車でおよそ3時間の場所にある三重県南伊勢町。曲がりくねった山道が続き、トンネルをいくつも抜けた先にやっと現れるのが、人口300人ほどの小さな港町「方座浦(ほうざうら)」です。
そして2023年7月、200年以上の歴史があるといわれる「浅間祭(せんげんまつり)」が2日間にわたり行われました。
真鯛の養殖や、ブリの定置網漁などで栄える方座浦の海の中で、「そーりゃー!ふっふっふ~!」と変なかけ声を上げながら、何かを祈るような仕草を見せる男たちがいました。
何をしているのか尋ねると「お清め」とのこと。
(男性)
「浅間さんの山を見て、疫病退散みたいな願いを込めながら…」
浅間祭の根源にあるのは「富士山信仰」。今から1000年以上も昔、静岡県の富士宮市にある富士山本宮浅間大社(ふじさんほんぐうせんげんたいしゃ)で、神様が富士山の噴火を鎮めたのが起源とされています。今では全国1300以上の浅間神社が、それぞれ独自の意味や目的をもった祭を行うようになったそう。
その多くに共通するのは、桜の語源になったともいわれる美しい女神「コノハナサクヤヒメ」を祀っていること。
この方座浦でも山の上には小さな祠があり、その山を富士山のように崇めた様々な行事が行われています。
ブサイクに見せる「変なお化粧」をする理由は?
方座浦で行われている行事には「変なこと」が沢山ありました。
お祭りの前に「垢離(こうり)」と呼ばれる水行(すいぎょう)で、全身を綺麗にお清めした後に、男たちが一斉に「変な化粧」を始めました。そのデザインはほぼ落書き状態で「こんなことをしてバチが当たらないの?」と心配になるほど。
(男性)
「神様がブサイクだから、おだてるためブサイクに」
実は方座浦の浅間祭には、美しいコノハナサクヤヒメに加え、その姉である神様も一緒に祀る珍しい文化がありました。
姉の名は「イワナガヒメ」。岩のように固く強い生命力を象徴する一方、ひどく容姿が醜かったそう。男たちは自分もブサイクになることで、イワナガヒメを慰めているといいます。
そんな変わったお祭りですが、町を離れて生活している男たちも、このために帰ってきます。
(祭りのために帰省した男性)
「この祭が好きなので来ちゃう。最高!」
祭り1日目の終わりには、花火が打ち上げられました。
他人の家で、歌って踊って好き放題?
祭り2日目、町には飾り付けられた高さ8メートルほどもある2本の竹が用意されます。その2本には、大きさに違いがありました。
(浅間祭 保存会・小西範昭会長)
「『大幣(おおへい) 』と『小幣(こうへい) 』。小幣がコノハナサクヤヒメ、大幣が姉ちゃん(イワナガヒメ)」
浅間祭に欠かせないのが、姉妹の神様に見立てた「幣(へい)」と呼ばれる祭具。小さい方に妹のコノハナサクヤヒメ、大きい方に姉のイワナガヒメが宿るとされ、大小それぞれを選ばれた10人ほどで運び、町中を練り歩くのがメインイベントです。
町民は幣がやってくるとお神酒をかけるのが習わしなのですが、この町回りにはもうひとつ「変な習わし」がありました。
男たちが向かったのは、とある民家。すると家に上がり込んで歌い踊り出しました。
実はこの家、前日にくじ引きで決まった幣のリーダー「神男(かみおとこ)」の自宅。選ばれた男の家では、こうしてお祝いするのが習わしです。さらにその後は、飲んで食べて、大宴会!まだ新しい家なのに、40人の男たちが好き放題です。
大騒ぎする男たちも、この日はいわば神様の使い。きっとこの家にはさらなる幸運が訪れるはずです。
祭りのフィナーレは「登山」&「競争」!?
浅間祭に「最大に変」…そして超「大変」な神事がありました。
それは、標高200メートルほどの山の上に、2つの幣を奉納すること。その道のりは1キロ程度なのですが、道中は舗装もされていない、まるで崖のような岩山。前日から飲んで、歌い踊り続けた体でおよそ2時間!まさに命がけの登山です。
男たちは一歩、また一歩と、少しずつ、でも着実に険しい山道を進みます。間もなく山の上に到達、あとは奉納するのみと思いきや、ここからが本番です。
(小幣の神男・リーダー 河村将慶さん)
「競争がある。ずっと立ててきた幣を倒して、最後にまた立てて納める」
幣を「競争」をしながら奉納するのが浅間祭。
ルールは簡単。山頂付近に立てられた鳥居の前をスタート地点に、それぞれ決められたゴールへ走り、先に幣を立てたほうが勝ちです。
本来この競争は、これまでブサイクなイワナガヒメを慰めた分、最後は妹のコノハナサクヤヒメが宿る小幣を勝たせるのが目的。
しかし、そこは血気盛んな海の男たち。いつからかこの競争は、忖度なしのガチ勝負に発展しました。そして今年は、妹のコノハナサクヤヒメが宿る小幣が見事勝利!
こうして、2日間に渡る「浅間祭」が終了しました。奉納された幣がこの一年間、山の上から方座浦の町を見守ります。
一見「変なこと」ばかり。しかしその中には、地元愛と町の活気、家族のような団結力がありました。
CBCテレビ「チャント!」7月12日放送より