「根尾は外野一本」すばやい決断の底にある立浪新監督の期待と戦略

「根尾は外野一本」すばやい決断の底にある立浪新監督の期待と戦略

「根尾は外野手だって!?」と開口一番、ナゴヤ球場近くに住む88歳のドラゴンズファンは楽しそうに話題にしていた。根尾昂選手の来季、中日ドラゴンズの立浪和義新監督は秋季キャンプ打ち上げ当日に、2022年シーズンは「外野手一本」で勝負させると発表した。

秋季キャンプ最終日の発表

それは突然のことだった。立浪監督を迎えたドラゴンズは新体制の下、3週間にわたってナゴヤ球場で秋季キャンプを行った。根尾選手は1年後輩の石川昂弥選手と共に、連日のように立浪監督からも直接指導を受けるなど、強化選手のひとりとして練習に打ち込んだ。その根尾選手のポジション、年明け沖縄での春季キャンプまでには「決める」としていた立浪監督だったが、キャンプ最終日の11月26日に、根尾選手自身にも通告した後、「外野手で勝負させる」と明言したのだった。

根尾「ショート」へのこだわり

大阪桐蔭高校時代には背番号「6」を背負い、甲子園で春夏連覇を成し遂げた根尾選手。内野の「ショート」というポジションには強いこだわりがあり、入団発表の時にも「ショートで勝負したい」と語っていた。しかし、そこには「京田陽太」という守備力を誇る大きな壁が立ちはだかっていた。それでも果敢に挑もうとする根尾選手に対し、前監督だった与田剛さんは「ショートは京田と根尾の競争」と2021年シーズン前に語った。しかし、打撃などの不振から京田選手がプロ入り後初めて2軍落ちしたにもかかわらず、根尾選手がショートを守ることはなかった。「競争」は言葉だけで終わり、根尾選手がスタメンショートに就いたのはペナントの行方もほぼ決着した10月中旬のことだった。

上司の指示は「早く」あれ

「サンデードラゴンズ」より根尾昂選手©CBCテレビ

今回、立浪監督は「キャンプまでには」としていた予定を繰り上げて、根尾選手に「来季は外野手」と伝えると共に、そのポジションについても「右翼(ライト)」と具体的に決めた。2021年の開幕戦にスタメンで出場した「左翼(レフト)」ではなく。「打てればレギュラー」という踏み込んだ励ましの言葉と共に。一般社会でも、上司の指示は“早く”そして“分かりやすい”に限る。ニュース報道の世界でも「デスク」と呼ばれる立場の人間が様々な取材の指示を出すが、その采配によってスピーディな取材ができたり、時には右往左往して困ったり、明暗いろいろな経験をした記憶がある。「早く分かった方が準備もできる」という立浪監督の決断、その背景には根尾選手に対する大いなる期待がうかがえる。活躍すると全国ニュースになるスター性と共に、その強肩は広いバンテリンドームでの戦いに“必需品”と考えているはずだ。

根尾に厳しき外野手競争あり

「サンデードラゴンズ」より根尾昂選手©CBCテレビ

そんな指揮官からの期待がある反面、4年目を外野手として迎える根尾選手のライバルは多い。立浪監督がダヤン・ビシエド選手と共にレギュラーと認める大島洋平選手は、目標とする2000安打に向けて来季も外野の一角を渡さないだろう。強打のキャッチャー2人、アリエル・マルティネス選手と郡司裕也選手も出場機会を狙って、キャンプでは外野守備の練習もした。岡林勇希選手と伊藤康祐選手もレギュラー取りへ気合十分、さらに、ドラフト会議では、ブライト健太、鵜飼航丞、そして福元悠真という3人の大学生外野手を指名した。新たな外国人助っ人の獲得もあるかもしれない。「外野手一本」それはスタートラインであって、根尾選手の前には厳しいチーム内競争が待っている。「打つしかない」根尾選手も果敢にレギュラー取りへ強い決意を語った。

冒頭の「88歳ドラゴンズファン」は、実は筆者の父親である。初代「ミスター・ドラゴンズ」西沢道夫選手の現役時代から竜を応援し続けている“筋金入り”ファンまでも注目させる背番号「7」根尾昂。
これは根尾選手だけでなく全選手に言えることだが、これから2か月のオフをどう過ごすのか?で勝負は決まる。キャンプ初日の立浪新監督の目の奥に微笑はなく、冷静で底知れぬ厳しさ一色に染まっていることだけは間違いなさそうだ。そして竜党はそんな厳しさを頼もしいと思いながら、まだ遠い球春に向かって期待を大きく膨らませている。
                            

【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲  愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。

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