ソニーはなぜKADOKAWAを選んだのか?
11月19日、ロイターはソニーグループが出版大手「KADOKAWA」の買収を検討していることを報じました。なぜ今、ソニーグループはKADOKAWAの買収を目指しているのでしょうか?12月5日放送の『CBCラジオ #プラス!』では、CBC論説室の石塚元章特別解説委員が、KADOKAWA買収検討の背景についてソニーグループの歴史を中心に解説しました。
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ソニーと聞いて思い浮かべるイメージは、世代や年代によってさまざまです。例えば、ウォークマンやMDプレーヤー、トランジスタラジオ、VHSと競い合ったベータマックス、トリニトロンテレビなどが挙げられます。
このように、ソニーは日本を代表する企業として数々の画期的な製品を生み出し、世界に送り出してきた会社です。
ソニーの創業は1946年、戦後間もない時期に遡ります。創業者は、井深大氏と愛知県出身の盛田昭夫氏。このふたりが東京で設立した「東京通信工業」は、戦後の混乱期にビルの一室からスタートし、やがて世界に名を轟かせる存在へと成長しました。
ソニーの理念と革新
ソニーの創業時に掲げられた「趣意書」には、「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」という一文が記されています。
このビジョンは、戦後の復興期において非常に先進的で、「戦争には負けたけれど、新しい未来を切り拓く」という強い意志を感じさせます。
その後、ソニーはテープレコーダーやトランジスタラジオの開発を通じて成長。
1958年に正式に商号を「ソニー株式会社」としました。この名前は、ラテン語の「sonus」(音)、英語の「sonny」(若者)、さらには「sunny」(明るさ)を組み合わせた造語で、海外展開を意識して作られました。
二本柱の対立
1970年には日本企業として初めてニューヨーク証券取引所に上場。
その後、ソニーは映画や音楽といったエンターテインメント分野にも進出します。コロンビア映画の買収や「CBSソニー」の設立により、ソフト事業が拡大。
一方で、プレイステーションやVAIOといったハードウェア事業でも成功を収め、エンターテインメントとエレクトロニクスの二本柱で発展を続けました。
しかし、社内では「ソニーといえば映画や音楽」というソフト事業派と、「エレクトロニクスがソニーの核だ」というものづくり派の間で意見の対立が生じ、組織の方向性が揺らぐ時期もありました。
この対立の影響で組織としての方向性が定まらず、新製品の開発が停滞する時期もあったといわれています。
「スクラップ・アンド・スクラップ」
2003年、ソニーは大幅な減益を記録。「ソニーショック」と呼ばれるこの事態は、日経平均株価にも大きな影響を与えました。
経営の立て直しを図るため、ソニーは大規模なリストラを実施しました。この過程で、不採算事業の整理が続き、一部では「スクラップ・アンド・ビルド」ではなく、「スクラップ・アンド・スクラップ」と評されることもありました。
混乱の中、2012年には平井一夫氏が社長に就任。音楽部門出身の平井氏は、ソニーの本流からは外れた経歴でしたが、新しい視点を活かし、変革に取り組みました。
それまでは、森田氏や井深氏といったカリスマ的な創業者のイメージが強い企業でしたが、そのスタイルから徐々に脱却していきました。
VAIO事業を他社に譲渡し、テレビ事業を子会社化するなど、「いい商品を開発して売るだけ」という従来型のメーカーから、利用者へのアフターサービスや継続的な利益を見込むビジネスモデルへと転換。
この変化によって、ソニーは復活の兆しを見せ始めました。
「老舗出版社」からの変貌
KADOKAWAもソニーと同じく、戦後間もない時期に設立された企業です。1945年に創業した「角川書店」は、名門出版社としての地位を築きました。
特に、2代目の社長である角川春樹氏は、書籍、映画、音楽などを組み合わせて展開する「メディアミックス戦略」で大成功を収めました。
その後、3代目の角川歴彦氏がゲームやアニメ、ライトノベルなど新たな分野に進出し、さらに成長を遂げます。
2014年には、ニコニコ動画を運営するドワンゴと経営統合し、従来の「老舗出版社」から変貌を遂げました。
なぜKADOKAWAを?
このような中で、ソニーがKADOKAWAの買収を検討している理由は明確です。
ソニーはエンターテインメント部門を強化し、「IP(知的財産)」を軸にしたビジネスモデルをさらに拡充させようとしています。KADOKAWAと組むことで、コンテンツの企画、制作、販売までを一体化し、新しいビジネスモデルを築ける可能性があります。
一方で、競争は激化しています。例えば、Netflixは日本国内だけで1,000万人以上の登録者を抱えており、世界的にも圧倒的な影響力を持っています。
また、中国の企業が日本のアニメやコンテンツ産業に出資する動きも加速しています。この状況に対し、ソニーがKADOKAWAを取り込むことで、中国資本への依存を防ぎ、国内のコンテンツ産業を守る狙いもあると考えられます。
こうした背景から、ソニーとKADOKAWAが手を組むことは、国内外の競争に打ち勝つための「ワンチーム」としての戦略と位置付けられます。今後の動向が注目されるところです。
(minto)