さよなら「どんこ競馬場」 73年の歴史に幕を下ろした最後の1日
2022年3月11日のレースをもって、73年の歴史に幕を下ろした名古屋市港区の名古屋競馬場。地元の地名から“どんこ(土古)競馬場”の愛称でも親しまれてきました。最終日は、レースを見届けようと多くのファンが集結。惜しまれながら幕を閉じた名古屋競馬場最後の1日を取材しました。
訪れるファンの思い
1949年にオープンした名古屋競馬場は、最盛期の1974年度には年間およそ290万人が来場、馬券発売額は735億円を誇りました。しかし、1990年代に入るとバブル崩壊などのあおりを受けて赤字に転落します。
その後、馬券のインターネット販売が定着して黒字回復したものの、施設の老朽化から2022年4月、お隣の愛知県弥富市へ移転することが決まったのです。
開場1時間前の午前9時には入り口に多くのファンが長い列を作って、開場を今か今かと待ちわびていました。
先頭に並んでいた男性に話を聞いてみると…。
男性「朝の3時に並びました。今日が最後ということで、一番最初に入って一番最後に出る伝説を残したいと思って」
近くに住む若い親子連れの女性は、昔はよく親に連れてきてもらっていた思い出をふり返り、ずっとあった場所がなくなるのは寂しいと話します。今では我が子を連れてくる立場になりましたが、まだ子どもは幼いので、いつか大きくなって覚えるのは移転先の弥富市(の競馬場)になると思う。心に残しておきたいとの思いから、最後の日に子どもと一緒に来ていました。
競走馬をカメラに収めよう訪れるアマチュアカメマンの男性は、きょうは最後なので悔いのないように写真を残したいと話していました。
それぞれのファンの胸には、様々な思いが交錯しています。
名古屋競馬場、最後の実況
名古屋競馬場の実況として長年携わってきた、畑野謙二(はたの・けんじ)さん63歳。
競馬実況のアナウンサー歴は30年以上の大ベテラン、10年ほど前からは名古屋競馬場の広報担当職員として働きながらすべてのレースで実況を担当しています。
移転先の弥富市でも競馬実況は続けますが、名古屋競馬場のこの景色を見ながら実況するのは今日が最後です。
畑野さん「三十何年実況をやっている私の人生の半分が、ここにいるわけですから。ファンの皆様へ感謝の気持ちを込めて今日は実況したいと思っています。」
最終レースまでしっかりと実況を務め、景色を焼き付けると同時に思い出をかみしめながら1日を終えました。
半世紀以上食堂を切り盛りした女将が引退
名古屋競馬場の端にポツンと建つ小さな食堂があります。切り盛りしているのは松井美代子(まつい・みよこ)さん、81歳です。
松井さんの親の代から店を営んでいて、およそ半世紀もの間、名古屋競馬場に携わってきました。しかし、今回の移転をきっかけに高齢であること、後継者がいないことから店を閉めることを決意。
寂しさに浸る暇なく、いつも通り忙しいお昼時に注文を受けていると、常連のお客さんが「きょうで終わりだから…」と次々訪れます。その中には父親と息子の親子連れの姿もありました。
競馬好きの父親に連れてきてもらったことがきっかけで、この店の大ファンになった男の子は、レースがないときもラーメンだけ食べに来ていました。最後のラーメンの味について聞いてみると…。
男の子「いつもより うめえ」
名残惜しそうに味わって食べていました。
慌ただしく片付け、店内のテレビで最後のレースを見届けました。
松井さんは「終わりました、ありがとうございました 55年間。長かったような短かったようなね。これからはのんびりとします。」と目を潤ませながらつぶやいていました。
73年の歴史を持った名古屋競馬場の最後の1日は、ファンや関係者の様々な思いを刻んで幕を閉じました。
CBCテレビ「チャント!」3月17日の放送より。