トランプ外交“波高し”、各地の紛争は収束できず、新たな貿易戦争が勃発

この人がメディアに登場しない日はない。米国のトランプ大統領の姿は、連日のように各国のニュース画面にあり、その発言に世界は“一喜一憂”するかのように揺れ動いている。こう書いたものの“一喜一憂”の内「喜び」は少ないというのが現状であろう。
ウクライナの戦火は止まず
「24時間以内にウクライナの戦争を終わらせる」。2025年(令和7年)1月、大統領就任前にこう宣言したトランプ大統領だったが、その後「100日以内」とトーンダウンした。ウクライナのゼレンスキー大統領をホワイトハウスに招いての会談は、思いもかけない言葉の応酬から決裂。しかし、その後、再交渉によって、ウクライナは一時停戦に合意した。しかし、ロシアのプーチン大統領は一筋縄ではいかなかった。その老練な交渉術によって、停戦は実現せず、紛争が始まって4度目の春が訪れても、和平は実現していない。
中東での停戦も崩壊
「どちらかの内、ウクライナの方が厳しい」として、和平合意に自信を見せていた、一方の中東情勢も混沌としている。トランプ大統領の就任に合わせたように、イスラエルとイスラム組織ハマスは停戦に合意した。しかし、イスラエル軍のガザ地区からの完全撤退など交渉は第2ステージで頓挫した。3月中旬に、イスラエルは再びガザ地区に大規模な空爆を行った。「停戦は崩壊の危機」と各国メディアは報じたが、「崩壊した」と言えるだろう。空爆に続きイスラエル軍は地上作戦も再開した。またしても多くの市民が犠牲になった。
長き対立の歴史の末に

ウクライナと中東、2つの大きな紛争の解決に強気な発言をしていたトランプ大統領だったが、その発言の数は少なくなっている。米国がいくら大国と言っても、アメリカ合衆国が独立を宣言したのは1776年7月4日、“まだ”250年も経っていないのである。イスラエルとパレスチナの対立は、紀元前の旧約聖書の時代から3,000年も続いている。
最近では1993年(平成5年)にクリントン政権の仲介によって、両者の歴史的な握手が実現した。いわゆる「オスロ合意」である。その両者、イスラエルのラビン首相とパレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長は、その年のノーベル平和賞も受賞した。それでも、和平は実現しなかった。30年以上前のことを「最近では」と書くくらいに対立の歴史は長い。いくらトランプ大統領が、その力を誇示しても“一朝一夕”で解決できるほど、歴史は浅くはない。
関税をめぐる二転三転

2つの紛争を収めきれない代わりに起きたのは“貿易戦争”である。2025年4月早々に、トランプ大統領は、米国が輸入するすべての製品に対する、新たな関税を発表した。ところがその後、中国を除く多くの国に対する相互関税を「90日間ストップ」すると発表した。米国内の反発も予想以上だったことだろう。二転三転する発言に、日本をはじめ各国の経済は大きく揺れている。日米による関税交渉も始まった。
米中の新たな“戦争”へ
報復関税を発表した中国に対しては、最終的に145%の関税を発表し、対する中国は米国製品に対して125%の関税を課すことになった。こうして「米中貿易戦争」が始まった。しかし、スマートフォンなどに高額な関税が生じると、アメリカ国内でも大きな混乱が生じる恐れがあり、半導体や電子機器については“別の関税”と言及した。発表してはそれを修正し、そしてまた新たな発表をする。一体いつまで続くのだろうか。
戦いを終えるためには、多くの場合、ゴールをめざす「シナリオ」が必要である。トランプ大統領が描くゴールとは何なのだろうか。そこへの「シナリオ」は米国政権内でどこまで練られ、熟しているのか。ウクライナと中東、地球上で続いている2つの大きな紛争に加えての、3つ目になりそうな“貿易戦争”に、新たな憂いが増す重苦しい春である。
【東西南北論説風(578) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】