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天国でも線路の旅を楽しんでいますか?“鉄道マン”JR東海の須田寛さんを偲ぶ

天国でも線路の旅を楽しんでいますか?“鉄道マン”JR東海の須田寛さんを偲ぶ
CBCテレビ:画像「須田寛さん遺影」

鉄道をこよなく愛した経営者だった。2024年(令和6年)12月に93歳で亡くなった東海旅客鉄道株式会社(JR東海)の初代社長・須田寛さんを偲ぶ「お別れの会」が、2025年3月31日に名古屋市内で営まれた。「のぞみ」の導入など民間会社としての強固な基盤を築いた須田社長。国鉄の分割民営化直後、JR東海最初の入社式などを取材した担当記者として、稀代の鉄道マンだった須田さんの数々の姿を懐かしく思い出す。

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秘書を伴わず単身で行動

昭和の末期、名古屋市内のホテルで地元経済界の会合が開かれた時だった。取材のために、開始前に会場に着いていた私は、ふと窓から外に目をやって驚いた。JR東海の須田社長が、ホテル前の信号交差点をひとりで横断してくる。手には使い慣れたビジネスかばん。他の出席者が社有車などで乗りつける中、秘書も誰も伴わず、徒歩での会場入りだった。先乗りしていたJR東海の秘書が待ち構え、到着と共に須田さんを会場の席に案内していた。この日は、中央線に乗って中津川駅などの様子を見に行っていたとのこと。もちろん単身で。鉄道に乗ることがとにかく好きな人だった。

自由席に姿を見つけた

大阪でリニア中央新幹線をテーマに、関西と中部の財界人が集う会議が開催された日のことだった。名古屋から現地の取材に向かうため、私はカメラクルーと共に、午前9時すぎ、下りの「こだま」車内にいた。トイレへ立った時、自由席車両内に思いがけない顔を見つけた。須田社長だった。ひとりで席に腰かけている。やはり秘書などJR社員の姿はない。向かい側の席が空いている。取材記者として、トップと話ができるこんな好機は逃せない。

「前の席にお邪魔してよろしいですか?」「もちろんです、どうぞ」

車掌からのメモの中身

リニア計画の展望など、話しが始まってしばらく後に、車掌が席にやって来た。そして、須田さんに小さなメモを手渡す。拝見させてもらうと、そこには、その「こだま」列車の乗車率が書かれていた。たしか93%ぐらいだったと記憶する。「よく混んでいますね」という私の感想に対して、須田さんはきっぱりと否定した。

「まだまだです。平日のビジネスタイム、乗車率は90%台の後半でなければいけない。もっともっと改善と努力の余地はある」

弁舌は「立て板に水」

放送記者にとって、須田さんは実にありがたい経営トップだった。それはカメラインタビューでの弁舌、軽やかかつ鮮明だった。まさに「立て板に水」。20秒または30秒の間に、過不足ない情報が実に端的でわかりやすい言葉で語られていた。テレビニュースは放送尺を意識しながら、談話のポイント部分をカットして紹介するのだが、須田さんの話ほど編集しやすいインタビューはなかった。おかげで、私は担当記者だった期間に、何度も何度もインタビュー取材を申し込み、須田さんも忙しい中、すべてに対してきちんと対応して下さった。温かく誠実な人柄だった。

観光業にも一家言

鉄道会社をリードしながら、須田さんは観光業の問題についても力を入れていた。観光地の在り方、街づくりにも、しっかりとした持論があった。名古屋市営バスが、赤字解消へと広告収入を得るために、車体のラッピングを始めたことには批判的だった。もともとのオリジナルデザインは、名古屋の街を走ることを想定して、それに合わせて色なども決まっている。様々なラッピングによって、その“風景”が影響を受けてしまうという理由だった。都市全体のあり方、バス1台にまで目を配る慧眼には驚かされた。

切手収集の愛好家

「ウィーンからの記念切手」:筆者所蔵

経営トップと取材記者という、仕事を通しての厚誼だけではなかった。実は私たちは共通の趣味を持っていた。それは切手収集である。鉄道の取材担当を離れた後、私は海外特派員として、3年間オーストリアのウィーンに赴任したが、彼の地でお気に入りの記念切手を見つけると、2人分を購入して名古屋の須田さんの手元に送った。EU統合や建国などの記念、さらに、民族紛争が続いていた旧ユーゴスラビアの紛争地のひとつであるクロアチアでも切手を入手して“愛好家仲間”へ度々届けた。須田さんはとても喜んで下さり、毎回必ず、ご丁寧な御礼状をエアメールで送って下さった。細やかで律儀な紳士だった。

CBCテレビ:画像「お別れの会祭壇」

「お別れの会」会場の祭壇は、新幹線車両の形を描くように花が飾られた。中央の須田さんの写真は上品で親しみあふれる懐かしい笑顔で、参列した人々を迎えていた。今ごろは空の上でも、きっと大好きだった線路の旅を楽しんでいることだろう。でもそれはきっと、リニアでも東海道新幹線でも特急電車でもなく、大好きだった各駅停車の旅であるに違いない。
   
【東西南北論説風(570)  by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】

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