冷やし中華にマヨネーズ。創作精神旺盛な料理人が生んだ「もうひとつの発祥物語」 ~大竹敏之のシン・名古屋めし
スガキヤ発祥説が有名だが・・・
「毎年、夏になるとこの話題で取材を受けます」と笑うのは1953年創業の老舗中華料理店「かっぱ園菜館」(名古屋市東区)のご主人、伊藤祐輔さん。夏の風物詩的メニュー、冷やし中華。これにマヨネーズをつけるのは名古屋独特、という食習慣もまた名古屋めしシーンの夏の風物詩的ネタです(ちなみに東海3県の他、長野県、福島県、山形県でも同様の食べ方が普及しているそう)。
スガキヤ発祥との説が広く知られていますが、もうひとつのルーツ候補の個人店にも声がかかるのは、毎年取材調査がくり返され、それでも結局確証は得られていないことの証左。と同時に、多くの人の関心を引く「あるある」ネタだからといえるでしょう。
スガキヤがこの組み合わせを始めたのは1957年頃。この年に売り出した冷やしラーメンにマヨネーズをつけたのが始まりといわれます。その後の1965年頃、冷やし中華にも同様につけるようになりました。
マヨネーズをそえたスガキヤとは異なる理由とは?
一方のかっぱ園菜館も、同じ時期にこの組み合わせを始めたのではなかったかといいます。「創業者の祖父が急逝し、東京で修業をしていた父(伊藤理人=「みちお」さん・故人)が急きょ後を継いだのが1965年頃。修業期間が2年ほどと短かったので、中華料理の常識にとらわれず自由な発想で料理を作れたのだと思います」と伊藤さん。冷麺をサラダ感覚にして野菜をたくさん食べてもらいたい、というのが狙いだったとか。盛り付ける野菜などは今もほとんど変わっていないそうで、たっぷりのレタスにもやし、キュウリ、トマトも。サラダ風だとすればマヨネーズをつけるのはむしろ自然です。また、麵にからめるタレは酸味が控えめ。冷やし中華+マヨの利点として、しばしば“タレの酸っぱさをマヨネーズでまろやかにする”ことが挙げられますが、同店ではまったく異なる理由からマヨネーズをつけた、というのが面白いところです。
「名古屋めし足し算の法則」が生んだ独自の食文化
「新しモノ好きでいろんなものにすぐ飛びつく人で、担々麺を出すようになったのも早かった。僕が小学3、4年生だった昭和50年代半ばに、『これを新しく売り出すからキャッチフレーズを考えてくれ』と言われたのを覚えています」と伊藤さん。いわれてみれば昭和40年頃は、マヨネーズもまだ今ほど当たり前のものではなかったはず(マヨネーズの普及は昭和30年代以降とか)。中華料理店では、最近こそオーロラソースにマヨネーズを使いますが、当時は他にほとんど使い道がなかったと考えられます。1人の料理人の進取の精神が新たなご当地の食文化の発端になったとすると、あんかけスパゲティや台湾ラーメンにも通じるものを感じます。
他地域では思いつかない組み合わせで食材や調味料を加えるのが「名古屋めし足し算の法則」。食べ応えや満足感をアップさせる名古屋ならではのアレンジ力が発揮された「冷やし中華にマヨネーズ」は、これもひとつの名古屋めしといえるかも。これからの暑い季節はぜひ、夏の風物詩的名古屋めしを味わいましょう!
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#名古屋めしデララバ