都市伝説となった「柳橋駅」設置計画 リニアで脚光を浴びた再検討の機運
愛知県名古屋市内を走る地下鉄のひとつ、東山線。名古屋駅と伏見駅間を走る車窓から見ていると、レールの枕木が突如なくなり、全面コンクリート舗装に変わる場所が現れます。この場所には、もともと「駅」をつくる計画がありました。一度は幻となった計画が、再び脚光を浴びています。幻の新駅を巡る動きに密着しました。
戦後の繁華街だった柳橋・納屋橋界隈
かつて、新駅をつくる計画があった場所の上にある柳橋・納屋橋界隈。昔は名古屋で一、二を争う賑わいの街でした。
丹坂和弘さん(56歳)は、堀川沿いで飲食店が入るビルを経営する3代目社長。昔の柳橋・納屋橋界隈の賑わいについて振り返りました。
丹坂さん「小学校3年生くらいのときまで、広小路通に路面電車が走っておりまして、納屋橋界隈は自然に人が集まるところだったと思います」
この界隈を大阪の道頓堀を比較される方も多く、初代社長だった丹坂さんの祖父は当時としては大きい部類に当たる6階建てのピンク色をしたビルを建設。
納屋橋は、舟が行き来する堀川と路面電車のいわば“交差点”で戦後、街の賑わいの中心地。当時は多くの演芸場や映画館、劇場もありました。
しかし、この賑わいに変化をもたらしたのが「地下鉄」です。1957年、地下鉄が開業。名古屋駅の隣の駅が納屋橋から離れた伏見にできると、街は徐々に衰退していったのです。
栄える場所には栄えるだけの理由があり、廃れる場所にも廃れるだけの理由があると丹坂さんは話しました。
幻となった駅設置計画
こうした中、丹坂さんがいま期待しているのが、名古屋駅と伏見駅間を走る車窓から一瞬見える幻の「柳橋新駅」の設置です。
納屋橋から既存の交通機関や地下鉄へのアクセスは非常に悪く不便ですが、柳橋駅ができると人の流れがスムーズになります。
丹坂さん「納屋橋あたりがまた活性化していってくれると嬉しいなという想いで、今は(新駅設置に向けて)活動しています」
名古屋駅から隣の伏見駅の間隔は1.47kmと名古屋の地下鉄で最も長く、地下鉄開業時にもともと納屋橋に近い柳橋の辺りに駅を作る計画があったのです。今でも地下には柱の間隔が長く、レールの下がコンクリートで舗装されているなど駅を作るための構造物が残っています。
地下鉄東山線建築当時の1955年、昭和30年に名古屋市職員が作った資料には柳橋駅設置を検討していた痕跡が見えます。しかし、何らかの理由で立ち消えになりました。
名古屋市交通局の職員も、当時の構想などについてはわからないままです。
新駅設置の現実
今や都市伝説扱いとなったかつての駅予定地に、光が当たったのは8年前。名古屋市はリニア開業に向けた街づくりの一環として、この地区への駅設置の再検討を始めたのです。入り口と改札がそれぞれ2か所ずつある、柳橋新駅の具体的な青写真もすでに出来ています。
河村たかし市長も2014年の現地視察時に前向きな考えを示し、2021年の市長選で公約に掲げました。
折しも、名古屋鉄道が名古屋駅前に巨大ビルの計画を打ち出し、再開発ムードに乗って新駅は実現目前ともいえる状況となった矢先、新型コロナで事情が大きく変わります。 コロナ対策の支出が莫大な額に上る中、建設におよそ100億円、維持費に毎年2億円以上かかる新駅計画は後回しに。2022年度予算にも、新駅建設は盛り込まれていませんでした。
名古屋市議会では地元選出の議員から、あらためて駅の必要性を訴える声が上がっただけでなく、丹坂さんたちも柳橋駅の設置を求め、市に陳情を行いました。
リニアによる名古屋駅前の再開発が進み、地元でもオフィスビルやホテルの建設が相次ぐこの機会を逃せば、駅の新設は難しくなるという焦りもあります。
対する名古屋市は、中部空港やリニアに絡めた国家事業による開発として国の補助金を引っ張る手も考えていますが、まだ先は見えていません。
柳橋・納屋橋界隈を観光拠点にしたい
納屋橋がかかる堀川では、名古屋城を結ぶ観光船が試験運航されています。昔盛んだった堀川の水上交通を復活させ、活性化に繋げたいと期待を寄せる丹坂さん。
納屋橋が名古屋観光の拠点となり、ここから船に乗って熱田神宮や名古屋城など色々な場所へ行って街の良さを知って欲しい。そのためにも、新駅設置が不可欠だと考えています。
丹坂さん「リニアで名古屋駅に来られても、高層ビルに人が上がり、人が街に染み出してこない状態になるんじゃないかと思っています。それよりは柳橋駅ができて面として、人が広がってくるような形になってくると街が活性化するのではないか」
浮かんでは消えてきた幻の駅。65年の時を経て、今度こそ実現されるのでしょうか。
CBCテレビ「チャント!」4月25日の放送より。