CBC web | 中部日本放送株式会社 / CBCテレビ / CBCラジオ

MENU

カツオはどこを旅してきたの?眼球を分析して“旅路”を追跡できた!

カツオはどこを旅してきたの?眼球を分析して“旅路”を追跡できた!
イメージ画像:「カツオの刺身」(写真ACより)

毎年、初ガツオを食べる時に思い出す句がある。「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」という江戸時代の山口素堂(そどう)による俳句である。季節感満載の句の中で、初ガツオが力強く“泳いで”いるようだ。おろしにんにくと共に頬張ると、ぷりぷりの身から口の中に初夏が広がる。

関連リンク

【画像ギャラリー】カツオはどこを旅してきたの?眼球を分析して“旅路”を追跡できた!

回遊ルートを推定できる

そんなカツオが泳いできた回遊ルートを、その眼球を調べることで推定できる方法が見つかった。開発したのは、福井県立大学 海洋生物資源学部 海洋生物資源学科の松林順・准教授らのグループ。カツオの眼球に、泳いできた海の風景がそのまま焼きついて残っているわけではない。秘密は、その水晶体にあった。

水晶体は“年輪”のように

カツオの眼球にある水晶体には、新たに作られる細胞が“積み重なるように”残っていく特性がある。言い換えれば、まるで“樹木の年輪”みたいなものかもしれない。そこには、カツオが泳いできた海の、環境や食べた物の元素が“年輪のように”保存されていく。その水晶体に残った“海の記憶”を使って、回遊ルートを推定しようというものだ。

電子タグ追跡の限界

これまで、生き物の行動を探るには主に「バイオロギング」と呼ばれる方法が使われてきた。対象となる生き物に小型のセンサー「電子タグ」を取り付けて、再び自然の中に放す。そこから発せられる電波などによって、その動きを追跡する。しかし、コストもかかる上、バッテリーの容量にも限界がある。30センチ以下の小さな動物などには取り付けることが難しい上、実は放した後ほとんどが戻ってこないと言う。

カツオの分布図を作成

イメージ画像:「カツオの目」(写真ACより)

そこで、別の方法で追跡できないかと目をつけたのが、カツオの眼球だった。まず、分析のベースとなる分布図を作成した。日本近海から赤道付近までの海を人工衛星から観測して、その海域の水温や塩分などの環境についてのデータ、実際に集めた稚魚から成魚までの筋肉の炭素や窒素などのデータ、こうしたものからの統計モデルである。言わば分析の“下準備”だ。

カツオ33匹の眼球分析

いよいよ研究も本格的ステージへ。カツオの眼球にある水晶体を一定の厚さに切り取って、そこに蓄積されている元素を、あらかじめ作成した分布図にある元素と照らし合わせていく。その元素が一致する海域があれば「そのエリアをカツオが泳いできた」ことになる。研究チームは、日本近海で獲れた16匹、北緯10度から30度までの亜熱帯で獲れた9匹、そしてさらに南の赤道直下付近で獲れた8匹、合わせて33匹のカツオで分析した。

水晶体を剥離する苦心

この研究開発で最も大変だったことを松林准教授に尋ねた。カツオの眼球の水晶体はそのままではジェル状でドロドロになっているため、細かく剥離することはできなかった。そこで、眼球を冷凍したり、逆に加熱したり、様々な方法を試した結果、最終的には“風によって乾燥させる”というシンプルな方法によって、剥離に成功したそうだ。

カツオには2つの“旅路”

分析の結果、2つの“旅路”が見つかった。熱帯エリアの海で獲れたカツオは、すべて熱帯エリアに留まって生きてきた。一方で、日本近海で獲れたカツオの中に、亜熱帯エリアや熱帯エリアなどから北上してきたものが見つかった。それによって、熱帯エリアでふ化したカツオは「生涯ずっと熱帯周辺に留まる滞留型」と「海を北上する回遊型」の2種類あることが分かった。カツオには、全部が全部、群れとして動くのではなく、個々に“部分回遊”しているものも存在した。

漁業や資源保護にも活かす

イメージ画像:「並べられたカツオ」(写真ACより)

松林准教授によると、近年、日本近海で獲れるカツオの量が少しずつ減っているとのこと、一方で、太平洋の西部での量は減っていない。今回のようにカツオの回遊についての生態を分析することで、安定的な漁獲量を維持していく対策に活かすこともでき、資源を守っていくことにもつながる。眼球の水晶体から回遊ルートを推定することは、マグロやカジキなどの魚類、鳥類、ウミガメなどの爬虫類にも応用できるとのことで、今後の研究の拡がりにも期待が高まる。

今回の研究開発を知った今、目の前の刺身皿に盛りつけられた初ガツオに、箸をつける前に思わず話しかけてみたくなる。「君は一体、どの海を旅してきたの?」
          

【東西南北論説風(691)  by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】

<参考資料>「カツオの眼球の分析から回遊履歴を推定する手法の開発に成功」
      (福井県立大学/水産研究・教育機構/東北大学/京都大学舞鶴水産実験所)

この記事の画像を見る

オススメ関連コンテンツ

PAGE TOP