揺れ続ける辺野古の海、沖縄の普天間飛行場返還合意30年の夏が来る
もう30年が経ってしまった。沖縄にある米軍普天間飛行場の返還が、日米両政府によって合意されてからの歳月である。そんな中、移設先の辺野古では、新たな海域の埋め立て工事も始まった。
世界一危険な米軍基地

普天間飛行場は、沖縄本島の那覇市の北、宜野湾市の中心部にある米軍海兵隊の基地である。476ヘクタールという広さは、宜野湾市の面積の4分の1にあたる。滑走路の長さは2,740メートル。太平洋戦争で米軍が沖縄本島を占領し、住民から強制的に接収して建設した。周辺には住宅地や学校などが密集していて、「世界一危険な米軍基地」という、何ともありがたくない“別名”もある。
騒音と危険そして環境問題
現在は、輸送機オスプレイなどが配備されている。基地の西側に「嘉数(かかず)高台展望台」があり、そこに上がると飛行場全体を見渡すことができる。何度も訪れたが、海兵隊の航空部隊による飛行訓練があると、頭上を飛んでいく米軍機の騒音はかなりうるさい。2004年(平成16年)には、近くの沖縄国際大学に米軍のヘリコプターが墜落するという事故もあった。最近では、基地の周辺で有害物質であるPFAS(有機フッ素化合物)が検出され、大きな環境問題も起きている。「騒音」「危険」「環境問題」と、普天間飛行場について、周辺住民の不安は多い。
少女暴行事件をきっかけに
そんな普天間飛行場の土地が日本に返還されることになったのは、1996年(平成8年)4月のことだった。きっかけは、前年に起きた米兵による12歳の少女暴行事件だった。沖縄の人たちの怒りはかつてないほどに激しく、基地返還の気運は一気に高まった。当時の橋本龍太郎内閣は、米政府と交渉を進め、普天間飛行場の全面返還が合意された。
当初は「5年から7年で返還」
合意当初は「5年から7年で返還」という、具体的なスケジュール目標も決まっていた。しかし、そこから“ダッチロール”が始まる。代わりの基地をどこに作るのかはなかなか決まらず、ようやく「普天間飛行場の移設先は名護市の辺野古」と閣議決定された。
返還問題は大混乱
その後、民主党政権の時代に、時の鳩山由紀夫総理が「沖縄県外にする」と発言し、いったん辺野古への移設計画はストップした。しかし代替地は簡単に見つからず、再び辺野古に戻るなど、基地の返還問題は大混乱した。最終的には、2013年(平成25年)に当時の仲井眞弘多・沖縄県知事が「辺野古沿岸の埋め立て」を容認した。本来ならば、2000年代の前半には、普天間飛行場は返還されていたはずだった。
辺野古の軟弱な地盤
辺野古にある海で、埋め立て工事が始まったのは、平成の時代も終わろうとする2018年(平成30年)の暮れだった。そこにまた、新たな問題が持ち上がった。滑走路予定地の海底で軟弱な地盤が見つかったのだ。専門家によると“マヨネーズ状態”とも言われるもので、それを補強するために、砂を固めて作った杭を7万本以上打ち込むことになった。当初予定していなかった事態に、工事の総工費も予定額のほぼ3倍の1兆円近くに膨れ上がった。
普天間の“代替”になれるか
軟弱な海底の地盤に加えて、滑走路の長さも問題となっている。辺野古に計画されている滑走路は1,800メートルと、現在の普天間飛行場よりかなり短い。飛行場全体の広さも、辺野古の埋め立て部分は3分の1と小さくなる。はたして米軍の使用に耐えうるかどうか、と言われる中、2026年(令和8年)2月に驚くべきニュースがあった。米海兵隊の現役中佐が「辺野古に新しい基地ができた後も、普天間飛行場は継続して日米で共同使用できるよう求めたい」という論文を発表したのだ。こうした論評が出るということは、米国内にもそのような考えがあるということなのだろう。
早くても2030年代半ば

今後の見通しについて、政府は、辺野古に新しい施設を作る工事に9年余りかかり、米軍に引き渡すまでに12年かかるとしている。このスケジュールでも、普天間飛行場が返還されるのは、早くても2030年代の半ば以降となり、まだまだ先は長い。沖縄防衛局は、6月17日、辺野古の東側の新たな海域で、埋め立てを始めたと発表した。軟弱地盤のある場所ではなく、こうした新たな埋め立ては、去年11月以来となる。
合意を取り巻く環境も変化
さらに、中国による、いわゆる「台湾有事」への警戒もあって、南西諸島の防衛強化が進む中で、沖縄の米軍基地の重要性も増している。工事に膨大な時間が費やされている中、30年前の合意を取り巻く環境も、大きく変化している。そして、これからも紆余曲折が予想される。
沖縄は、まもなく81回目となる「慰霊の日」を迎える。9月には、現在の玉城デニー知事が3選をめざす沖縄県知事選があるが、基地問題も大きな争点となり、激しい選挙戦が予想される。沖縄にとっては、決して心休まることのない“普天間返還合意30年”の夏がやって来る。
【東西南北論説風(695) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】




