女性用トイレの行列は解消されるのか?国が協議会をスタート、対策に本腰
男性用トイレに女性が・・・
忘れられない風景がある。今は姿を消した名古屋市内の劇場ホール。幕間にトイレで小用を足していたら、男性用トイレにもかかわらず、後ろを次々と年配の女性たちが通って、個室トイレに入っていく。個室の空きを待つ人は“男女混合”となった。思わず、ひとりの女性に語りかけてしまった。
「すみません、ここは男性用トイレですけれど」
「仕方ないじゃない!もうすぐ休憩時間が終わっちゃうんだから!」
こう言い返されてトイレを出ると、女性用トイレの前にはロビーまで続く長い行列ができていた。
国は「骨太の方針」で位置付け
そんな女性用トイレの長蛇の列を解消するために、ようやく国が動き出した。2025年(令和7年)6月の閣議で決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025」いわゆる「骨太の方針」の中に、「女性用トイレの利用環境の改善に向けた対策の推進」が組み込まれたのである。
協議会もスタートした

協議会も設置された。その名も「トイレ設置数の基準と適用のあり方に関する協議会」。大学教授ら有識者の委員に加えて、鉄道会社、空港会社、百貨店協会など公衆トイレを持つ各種団体のメンバーも顔を揃えた。国土交通省が事務局となって、11月6日に東京で最初の会合が開かれた。協議会では、女性用トイレの行列問題の要因となっている“トイレの設置数”について、2026年3月までに改善に向けたガイドラインをまとめると言う。
トイレの行列は苦痛
協議会に先立って、8月から9月にかけて「日常でよく利用するトイレに関するアンケート調査」が実施された。1,020人から回答があった。普段トイレを使用している実体験から、男女トイレの待ち時間についての印象では、「女性の方が待ち時間が長い」と答えた人が、女性の97.4%、男性でも90.7%と、男女問わずの共通認識であることが明らかになった。当然と言えば当然だろう。トイレについて不便や不満に感じることのトップは、女性の場合、「利用するために並ばなければいけない」が、駅では55.2%、それ以外の交通施設でも47.2%、とにかく「行列」が最大の問題となっている現状があらためて浮き彫りになった。
女性用の便器数は少ない
その背景には、便器の設置数がある。協議会で示された別の調査結果では、男性用の便器の数を「1」とした場合、女性用の便器の数は、JRや私鉄など鉄道駅で「0.63」、空港ターミナルで「0.66」、バスターミナルで「0.71」と圧倒的に少ない。映画館でも「0.89」だった。美術館や博物館など、男性用を上回った施設もあるものの、まだまだ女性用の数は少ない。
個室の占有時間も長い

大と小の2種類の便器がある男性用に比べて、女性用は個室になるため、設置スペースが必要になる。さらに個室だと男女共に滞在時間も長く、いわゆる利用の回転数も悪くなる。最近では、洗浄便座が普及して、ますますトイレも快適に使えるようになったため、個室を占有する時間も増えているそうだ。
男性用を女性用に開放
これまで各施設も対策を取ってこなかったわけではない。例えば、名古屋のバンテリンドームでコンサートが開催される時、アーティストによって女性観客が多いと判断された場合は、男性用トイレを臨時に半分のスペースに仕切って、個室の一部を女性用に開放したケースに遭遇したこともある。ただ、利用する女性によっては、普段は男性が使っている便器を利用することに抵抗を感じる人も少なくない。やはり絶対数の増加は必要なのだろう。
行列解消への様々な工夫
最近では、行列を解消するために対策を取られたトイレも増えている。例えば、入口付近のモニターで混雑状況を表示したり、トイレ内の混雑を緩和するために入口と出口を一方通行にしたり、近くの空いているトイレに誘導したり、各地で様々な工夫がお目見えしている。ただ、アンケート調査によると、こうしたトイレについて「利用したことはない、または知らない」という回答は、女性37.2%、男性48.7%と、まだまだ周知されていない。数自体も少ないのだろう。
トイレの設置数を一朝一夕で増やすことは不可能であり、国の対策の行方にも長い“待ち時間”が横たわっている。その間の行列解消へ新たなアイデアを示すことができるのか、協議会がまとめるガイドラインの内容に期待する利用者は多い。
【東西南北論説風(644) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】



