CBC web | 中部日本放送株式会社 / CBCテレビ / CBCラジオ

MENU

南海トラフ地震の発生確率は90%?20%?幅のあり過ぎる数値への戸惑い

南海トラフ地震の発生確率は90%?20%?幅のあり過ぎる数値への戸惑い
イメージ画像:「地震で起きた災害」(写真ACより)

危機管理の基本のひとつに“分かりやすい”ことが挙げられる。自然災害への対応も同じ、いざという時に人間は動揺するので、行動は単純にしたい。「津波が来るぞ!逃げろ!」という呼びかけが代表的と言えよう。そんな中、先に発表された南海トラフ地震についての予測数値見直しには、少なからず驚いた。

関連リンク

【画像ギャラリー】南海トラフ地震の発生確率は90%?20%?幅のあり過ぎる数値への戸惑い

異例となった2種類の併記

政府の地震調査委員会は、南海トラフ地震が発生する確率について、2025年(令和7年)9月26日に新たな数値を発表した。算出方法の見直しによるもので、12年ぶりとなる。南海トラフ地震は、太平洋のプレートの沈み込みによって、過去に100年から150年ほどの間隔で発生してきた巨大地震である。発生確率は、これまで「30年以内に80%程度」とされてきた。今回は「60~90%程度以上」または「20~50%」と2種類が併記された。最大は90%で最小は20%、その差は大きく、発表を聞いた時は、どう捉えていいのかと戸惑った。

最初の「60~90%程度以上」とは?

イメージ画像:「津波避難の立て看板」(写真ACより)

まず「60~90%程度以上」は、従来の計算モデルの言わば“延長線”上にある。過去に起きた地震からの間隔と、直前の隆起データなどを合わせて分析するもので、精度を高めたことによる誤差を加味して「80%程度」から「60~90%程度」と幅を持たせるものになった。18世紀初め、まだ江戸時代の頃の宝永地震など、過去にさかのぼって分析することから「発生確率が高すぎるのでは?」と指摘する声もあった。

2つ目の「20~50%」とは?

次に今回初めて登場した「20~50%」は、過去からの隆起データを入れずに“固有のもの”として分析した。広範囲にわたる南海トラフ地震以外の、全国各地の地震活動評価で採用されている計算方式によって算出された。南海トラフ地震にとっての新たな数値である。固有のモデルで算出した方がいいという委員の声も多かったそうで、それが反映された形である。これまで明らかにされてきた発生確率に比べて、その数値はかなり低い。

科学的な優劣はつけられない

なぜ、2種類の確率が発表されたのだろうか?地震調査会によると、どちらも「科学的な優劣はつけられない」というのが、その理由である。結果、異例の併記となった。ここに、地震を予知することの難しさがある。南海トラフ地震による死者の数は「最大29万8,000人」、この内、津波による犠牲は21万人以上と想定されている。今回の発生確率は併記となったが、この想定は変わらない。

予測の難しさが浮き彫りに

イメージ画像:「熊本地震で崩れた家」(写真ACより)

地震調査委員会の専門家が検討を重ねた上で発表した2つの数値だが、受け止める側としては、正直やはり分かりにくい。「一体どちらなの?」と問いかけたくなる。つい嫌なことを敬遠したくなる人間の性(さが)として、最も低い「20%」を信じたくなる人情も理解できる。ただし、忘れてはいけないことは、発生確率が下がったわけではないということだ。今回は異例の併記に際して「防災対策を進める上では、高い方の発生確率(60~90%程度)を強調することが望ましい」と明記された。パーフェクトな地震予知はあり得ない。今後の予測分析も、きちんと注視していかなければならない。

いつ起きてもおかしくないと言われ続ける南海トラフの巨大地震。冒頭で触れた危機管理について、もうひとつ「大きく構えて、状況を見ながら小さく収めていく」という言葉もある。政府の発表はどうあれ、自分の命を守るため、やはり最も高い「90%程度以上」という数値を念頭に、日常での防災対策を“大きく構える”ことは必要だろう。

【東西南北論説風(632)  by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】

この記事の画像を見る

オススメ関連コンテンツ

PAGE TOP