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英国がEUを去った日~ロンドンの時計台が刻んだ歳月そして今後の歩み

英国がEUを去った日~ロンドンの時計台が刻んだ歳月そして今後の歩み
画像『pixabay』

大時計はどんな思いで時を刻んだのだろうか?
ロンドンの中心を流れるテムズ河畔、国会議事堂にある時計台「ビッグ・ベン」は、世界遺産にも登録された観光名所でもあり、ロンドンのシンボルでもある。
2020年1月31日、大きな針が午後11時をさした時、英国は長きにわたって仲間だった“1つのヨーロッパ”から離脱した。

時間のかかった離脱への道

紆余曲折の3年7か月だった。
2016年6月の国民投票の結果は、52対48という僅差で「EU離脱」賛成が上回った。この僅差を象徴するかのように、離脱へ向けての動きは加速とはいかなかった。その間には国のリーダーも変わった。保守党を率いるジョンソン首相は就任当初から離脱方針を掲げていたが、それでも2019年12月の下院総選挙まで最終的なGOサインを待たなくてはならなかった。それだけ、この離脱の意味は重い。

初めての加盟国離脱

EU(欧州連合)の前身であるEC(欧州共同体)時代から実に47年、リーダーのひとつ英国の離脱によって、EUは28か国から27か国になった。加盟国が抜けるのは初めてである。「ヨーロッパはひとつ」と唱え続け、かつての共産圏などからの加盟もあって拡大してきたEU、ついにそれにブレーキがかかった。
今回の離脱によって何が起きるのだろうか。英国、EU、そして国際社会、それぞれの局面から見てみたい。

新しい関係への話し合い

まず英国である。当面、表向きには何も変わらない。2020年いっぱいは「移行期間」であるためだ。これまでEU圏内では自由に人やモノは往来できた「単一市場」と、EU加盟国では関税がかからなかった「関税同盟」、この2つから外れた後の新たな形を、これから11か月かけてEU側と話し合っていくことになる。“新しい貿易関係”が構築できればいいが、話し合いがうまくいかなければ、いよいよ目に見える混乱が起きてくる。
6月までにEUと英国それぞれが了承すれば「移行期間」はさらに2年は延長できるのだが、そうなると以前から言われていた「合意なき離脱」状態がズルズル続くことと同じであり、ジョンソン首相も延長をはっきりと否定している。

スコットランドなどの独立気運

英国国内にはもうひとつ気になることがある。もともと「イングランド」「ウェールズ」「スコットランド」「北アイルランド」という4つの国の集合体の英国。
この内の「北アイルランド」は、国境を接する「アイルランド共和国」という国と紛争を繰り返しながらも、今は深い関係にある。ラグビーW杯でも“統一チーム”で出場したことは記憶に新しい。今回の離脱によって「北アイルランド」と「アイルランド共和国」の間には“国境”が生まれる。当面は関税などかからない特別な措置がとられるものの、統一をめざして北アイルランドが「ならば英国から独立しようか」ともなりかねない。
「スコットランド」はさらに姿勢が明解化している。下院総選挙では「EU残留」を訴えたスコットランド民族党が躍進した。今後、英国から独立してスコットランド単独でEU加盟へと向かう可能性を指摘する分析もある。かつて「大英帝国」として栄華を誇ったイギリスいう国が崩壊していく序章という側面もはらんでいる。

EU離脱ドミノの可能性は?

EUそして国際社会のバランスはどうなるのか。
フランス、ドイツと並んでEUのリーダーだった英国がいなくなり、統一ヨーロッパの力は明らかに弱くなる。その一方で、「アメリカ・ファースト」を唱えるトランプ大統領によって米国の一強体制はますます進むと見られる。そこに独自路線を展開するロシア、現在は新型肺炎で大きな打撃を受けつつあるものの大国の中国、これらの国の間で、英国なきEUがどう向き合っていくのか。
さらに、トランプ旋風によって「自国ファースト」という空気が世界にまん延する中、もし今回のEU離脱によって英国が多くの利益を得ることになったら、EU内から第二、第三の離脱国が出る可能性は十分にある。ここ数年間は、今後の動きから目が離せない。第二次大戦後の世界史は大きな節目を迎えた。

過ぎ去った日々に時計の針は戻せない。しかし、「ビッグ・ベン」がこれから刻んでいく未来について、常に熟考していくことはできる。
戦後75年、積み上げてきた平和と繁栄の基盤を尊重しながら、世界それぞれの国が慎重に歩んでいかなければならない時が来た。

【東西南北論説風(151) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

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