打てない、点が入らない、ドラゴンズ打線の“病”を直す薬はあるのか?

ホームランも出た。1イニングの複数得点もあった。そして連敗も止めた。神宮球場での3戦目は何とか“ひと息ついた”ゲームとなった。しかし、ドラゴンズ打線の「打てない」状況はまだまだ解消されたとは言い難い。(敬称略)
打てない中での3連敗

讀賣ジャイアンツとの本拠地バンテリンドーム3戦目からの3連敗は、本当に打てなかった。3つの併殺で、巨人先発の田中将大に通算198勝目を捧げた試合も切歯扼腕だったが、4月4日からの東京ヤクルトスワローズとの試合も、打線は苦しんだ。初戦は高橋宏斗(※「高」は「はしごだか」)が、開幕戦の負けを取り戻すような好投を見せた。しかし得点は、中田翔のタイムリー2ベースによる1点のみ。1対1の延長戦で、4番の石川昂弥に代打を送ってまで作った1死2、3塁のチャンスでも得点できなかった。
翌日の2戦目も、2点を追う6回表に無死満塁のチャンスを迎えたが、三振とダブルプレーで無得点。チャンスを迎えても、まるでそれがピンチのような“金縛り”状態に見える。3戦目は初回に3点を先取したが、その後はシーソーゲームの接戦。応援しながら胃が痛くなる思いだったが、今季初スタメンのブライト健太の一発で連敗を止めた。
開花していない竜打線

2025年(令和7年)ペナントレースは、9ゲームを終えた。井上一樹新監督を迎えたドラゴンズは、防御率はリーグトップ(同率)、しかし打線は、名古屋の街で満開を迎えた桜を横目に、開花すらしていない。チーム打率2割ジャストは、かろうじてリーグ5位だが、得点は12球団で最も少ない15点と、とにかく点が取れていないのである。これではなかなか勝つことができない、リーグ最下位の現状はやむなしであろう。(成績は4月6日現在)。
立浪監督以前から「打てない」

ドラゴンズ打線が点を取れなくなったのは、今に始まったことではない。立浪和義前監督が、2021年(令和3年)11月の監督就任会見で「打つ方は必ず何とかします」と宣言した言葉。これは立浪政権3年間、まるで“呪縛”のようにチームを覆い続けた。この力強い言葉を信じたファンの失望も大きかった。その3年間だけでなく、それ以前の与田剛監督時代から“打てていない”からの決意表明だったのである。
それでも、立浪監督のラストイヤーとなった昨シーズンは、チーム打率は前年の最下位から3位へ、ホームラン数も最下位から4位へと上向きだった。しかし、チーム総得点は373点、セ・リーグでの300点台はドラゴンズだけ。日本一になった横浜DeNAベイスターズは522点だった。さすがにこれでは勝負にならない。
懐かしい「強竜打線」の時代
かつてドラゴンズは「強竜打線」という代名詞で呼ばれていた。猛打と豪打による数多くの勝ちゲームを思い出す。1982年(昭和57年)には、4点リードの9回裏に讀賣ジャイアンツのエース江川卓を打ち砕き、最後はサヨナラ勝ちで優勝マジックを点灯させた。近藤貞雄監督“野武士野球”の真骨頂だった。
時は流れて、落合博満監督の3年目。リーグ優勝を決めた2006年(平成18年)10月のジャイアンツ戦は、延長12回表で福留孝介のタイムリーでリードを奪い、タイロン・ウッズの満塁ホームランでリーグ優勝を確かなものにした。同時に「投手王国」と呼ばれながらも、ドラゴンズは“打ち勝って”もきたのである。
落合監督8年目の2011年(平成23年)チーム打率も打点もリーグ最下位で優勝したのは、吉見一起や浅尾拓也ら屈指の投手陣に加え、監督采配が冴えまくった稀有なシーズンだった。
「打てない」理由はどこにある?

監督も代わった。指導する打撃コーチも新しい顔が加わった。選手だって新しい戦力が打線に名を連ねる。しかし「打てない」「点が入らない」「あと1本が出ない」という状態が変わらないのはなぜなのだろうか。これまで“根本的”な問題が巣食っていたとしても、2025年シーズンは“抜本的”なチーム改革が行われたはずだ。
あえて思いつくならば、トレードやドラフトなどの戦力補強面だろうか。東北楽天ゴールデンイーグルスへ移籍した阿部寿樹は、4割を打つなど開幕から打撃好調である。阪神タイガースの前川右京や、広島東洋カープの田村俊介ら、地元ゆかりのスラッガー候補ながらドラフト指名を見送ってしまった選手の打棒も目立っている。でも、長年の「打てない」病の理由として特定するには至らない。
長嶋茂雄さんの“教訓”
プロ野球界に入ってくる選手は、どこかに秀でたものがある。かつて落合博満“選手”は現役時代に「オレは日本に12しかない会社に選ばれた社員」と語っていた。投手も打者も、アマチュアとは違った才能を見出されて“職業野球”の道に入ったのである。そんな打者たち、まして1軍に名を連ねるメンバーが、何年も続けて打てないはずはない。
長嶋茂雄さんに『燃えた、打った、走った!』という自伝がある。文庫本になった当時、版によってだが表紙のイラストで、帽子を飛ばさんが限りの豪快なスイングが描かれていたことを思い出す。「来たボールを打つ」という野球の“基本中の基本”がそこにあった。野球をする楽しさ、醍醐味がそこにあった。今季初スタメンで魅せたブライト健太の“振り”にそんなことを思い出した。

ペナントレースは始まったばかり。「泥臭く戦う」と語る井上新監督、犠打の数は早くも10とリーグ2位の多さである。3年連続の最下位で迎えたシーズン、なくすものはない。今しばらくはジタバタすればいい。「病は気から」こんな言葉を「どらポジ」をスローガンに戦うチームに送って、同時に檄を飛ばし続けたい。
【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。CBCラジオ『ドラ魂キング』『#プラス!』出演中。