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愛知県初!中高一貫教育の現場から~明和高校の附属中学校で“目撃”したこと

愛知県初!中高一貫教育の現場から~明和高校の附属中学校で“目撃”したこと
音楽コースの社会科授業:筆者撮影

いきなり本音を言えば「目から鱗が落ちる」印象だった。愛知県で2025年度(令和7年度)から始まった中高一貫教育、4つの学校のひとつ、名古屋にある愛知県立明和高等学校の附属中学校で、授業参観をする機会を得た。

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愛知で始まった中高一貫教育

中高一貫教育は、前期の中学校教育と後期の高等学校教育、この6年間の課程に一貫性を持たせることで“質の高い”教育をめざそうというもので、国立や私立の学校では以前から行われてきた。愛知県では、東海3県で初めて、2025年度から県立の高等学校、明和、半田、刈谷、そして津島の4校で、附属中学校が開校した。

入試倍率17倍の学校

明和高校附属中学校の校門:筆者撮影

この内、名古屋市東区の明和高等学校附属中学校では、普通コース80人、音楽コース20人、合わせて100人が中高一貫教育での“最初の中学1年生”として、6年間の学校生活をスタートした。特に普通コースは、入試の倍率が17倍と、大変な激戦になったことが話題にもなった。入学から9か月が経った今、現場の状況はどうなっているのか。附属中学校での授業を実際に見ることができた。

英語~教室には先生が2人

英単語のタイピング:筆者撮影

まず、普通コースで英語の授業を参観した。教室に入って驚いたことは、先生が2人いることだった。教壇でメインに授業を進めるのは明和“高校”の英語教師、サブにつくのが明和“中学校”の教師ということだった。授業は英語で進む。時おり、少し分かりにくい部分では、先生の口から日本語が出るものの、基本は英語。この日は、愛知県から各自に支給されているパソコンを使って、制限時間内に、英字をタイピングする授業内容だった。瞬時に自己採点もできるため、生徒たちはゲーム感覚で英字を打ち込んでいた。筆者の中学1年生の時とは隔世の感があったが、机上の教科書『NEW HORIZON』(東京書籍)だけは同じで、懐かしさもあって少しホッとした。

国語~中原中也の詩から展開

国語の授業で詩を学ぶ:筆者撮影

もうひとつの普通コースは、国語の授業だった。こちらも先生は2人、高校と中学校のコンビである。正面のホワイトボードには、中原中也の詩『月夜の浜辺』が書かれて、それを題材に「口語自由詩」を学んでいた。詩の中にある「反復」「対句」「反語」などを、生徒たちが次々と手を挙げて、指摘していく。感心したのは、詩の技法を学ぶだけに留まらず、月の周期とか、詩に謳われたボタンのサイズや色とか、授業が次々と展開していったことである。国語の枠にとらわれない内容は、参観しているこちらも楽しむことができた。

社会~米国を1枚の写真から

社会科でアメリカを研究:筆者撮影

音楽コースの20人は、社会科の授業を受けていた。「アメリカ人ってどんな人?」というテーマで、ヨーロッパ系、アフリカ系、そしてアジア系など“複合国家”であるアメリカを学ぶ。北アメリカ州の街の1枚の写真から、そこに写っている人を指摘しながら、人種、宗教、言語、歴史など、内容は展開していく。授業の後半は、机をグループごとに向かい合わせにして、生徒同士が話し合いながら進んだ。英語や国語でも同じだったが、先生の話を一方的に聴くというものではなくて、常に会話しながらの授業だった。

「自分たちで歴史を創る」

授業を終えた中学1年生の生徒たちと話す時間があった。それぞれ自分の意見をはっきりと語る姿が印象的だった。附属中学校に入学してみての感想を尋ねると、ひとりの女子生徒が即答した。

「自分たちが主体となって、新しい歴史を創る。これまでの新しいこととは規模が違う」

入学から経験してきた体育祭や文化祭、そんな企画を自分たちで進めてきたことについて、楽しそうに語ってくれた。

伸び伸びと自分の発想で

普通コースの英語授業:筆者撮影

高校の校長も兼務している栗木晴久校長から「生徒たちは夏以降に急成長した。実年齢に2歳ほど足したぐらいの印象」と聞かされてはいたが、正直「これが9か月前は小学生だった子たちなのか」と舌を巻いた。栗木校長は「あくまでも仮説ですが」と前置きした上で、こんな分析を語ってくれた。

「普通の中学校では内申書など“評価される”ことに慣れてしまう。しかし、ここの生徒たちは、そんな一般的な評価を気にせず、伸び伸びと、自分の発想で生きることができている」

部活動が成り立たない悩み

課題もある。1学年100人という少人数のため、部活動がなかなか成り立たない。運動部も文化部も、もし組織したとしても、部員の絶対数は少なく、他の中学校との対外試合や交流なども、実はなかなか実現が難しいのが現実だ。その意味では、一般的な公立中学校の生徒たちが経験する中学生活とは、違った日々を送ることになる。中高一貫教育には、そんな“制限”も存在することを知らされた。

高校生との交流は今後の課題

中高の新校舎を建設中:筆者撮影

中高一貫教育を謳いながらも、明和では、高校生と中学生の交流が、まだ十分ではない。生徒たちも話してくれたが、同じ校内にいながらも、高校生たちと何か一緒に学校のイベントをした経験は少ない。「まず、高校生の先輩に挨拶をすることから始めたい」と話す生徒もいた。

明和では、現在、新しい校舎の建設が進められている。2027年3月に完成すると、同じ校舎に高校生と“混在”することになる。“物理的な交流”にはもうしばらく時間がかかる。明和高等学校は、文部科学省の「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の指定校で、理数系の教育にも力を入れている。今後は中学生たちも、そんな活動に加わっていくことが期待されている。

新たに5校でも中高一貫教育

愛知県では、明和など4校に続いて、2026年春に新たに5つの高校で、中高一貫教育がスタートする予定である。今回、授業参観によって目の当たりにしたものは、現状の中学教育と、そこから新たに何かを生み出そうという、教育現場のトライアルだった。明和附属中学校のテーマは「探求」である。この13歳たちが今後どんな歩みを見せるのか、愛知県の教育界にとっても、注目すべき“試金石”であろう。

「教えるのではなく“学び方を教える”。一問一答は求めない」。附属中学校の教務主任の先生が話してくれたひと言が、授業参観後の心に刻まれた。 
    

【東西南北論説風(651)  by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】

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