「リスキリング」について考える~参院選でも注目された次世代雇用のキーワード

この夏、作品展へのお誘いが重なった。陶芸あり、絵画あり、いずれも就業にひと区切りつけたシニア世代によるものだが、それぞれの会場に並ぶ“渾身の成果”に圧倒された。キャリアが浅い人の作品にも、それを感じさせない迫力がある。人間にとって「学ぶ」ということに、ゴールはないのだと痛感した。そんな視点から「リスキリング」を考える。
参院選でも「リスキリング」
「リスキリング(Reskillig)」という言葉が注目されて久しい。岸田文雄・前内閣における肝入り施策であった。2025年(令和7年)7月20日に投開票が行われた参議院選挙でも、1990年代からの雇用状況が厳しい中で就職活動した「就職氷河期世代」への支援策が各党の公約にのぼっていた。その訴えの中で「リスキリング」を掲げる党もあった。経済産業省は「リスキリング」について、「新しい就業に就くために、または、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること、させること」と定義している。
新たなスキルを学ぶこと
岸田内閣当時、2024年(令和6年)に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の中で「全世代型リ・スキリング」という言葉を使っている。「リスキリング」は、このように「リ」と「スキリング」に分けた方が理解しやすいかもしれない。すなわち「あらためて」「スキルや技術を身につけること」なのである。「学び直す」のではなく「何かの価値を生み出すために、今後に向けて必要なスキルを学ぶこと」と経済産業省も強調してきた。
語学に経理に幅広いスキル

「リスキリング」で取得できるスキル、具体的にはどんなものがあるのだろうか?真っ先に思い浮かぶのは語学である。外国語で契約書を作ったり、プレゼンテーションしたりする能力である。財務や経理の資格も対象だ。「経理」=「経営管理」と言われるように、財務はどの企業にとっても必要不可欠な能力だ。この他、リーダーシップ、マーケティング、そしてコーチングなど、「リスキリング」の対象項目は幅広い。
「リスキリング」を求める時代
では、なぜ今「リスキリング」なのだろうか?大きな要因は、働き方改革によって、仕事をする環境が大きく変化したことだ。テレワークやオンライン会議は、新型コロナ禍によって導入が一気に広がった。それを支えるのがデジタル化であり、対応するスキルが求められる。「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進」と言われるように、DXに対応できる人材を「リスキリング」によって確保する会社も増えてきた。時代が「リスキリング」を後押ししているのだ。
少子高齢化にも対応

少子高齢化の中、「リスキリング」によって、貴重な技術や技能を継承できる狙いもある。組織内だけではなく、外部からも人材を獲得できる。従業員それぞれのスキルや知識がアップすれば、その組織の総合力も上がる。株主や消費者など周囲から問われる企業価値も向上していく。政府が思い描いたのは、それによって、日本経済がより強靭になっていく姿だった。厚生労働省は、「リスキリング」に関わる職業訓練を「ハロートレーニング」と称しているが、分かりやすいネーミングである。国による給付金も用意されている。
組織の理解は必要不可欠
いいことばかりではない。「リスキリング」を進めるには、組織にそれなりの覚悟と態勢が必要となる。日常の仕事に加えて、新たなスキルの勉強をすることは、時間的にも労力的にも大変なことであり、その負担は大きい。また、せっかく付けたスキルを発揮できなければ「リスキリング」の意味はない。「リスキリング」の意義には賛同しても、実際の現場が機能しなければ、この取り組みも見かけ倒しの「張子の虎」で終わってしまうのである。組織内での意思統一、さらに、たゆまぬ整備も求められる。
「張り子の虎」という、ことわざついでにもうひとつ、「芸は身を助ける」という言葉がある。何かひとつでも得意なこと、または能力やスキルがあれば、それが何かの時に役に立つという意味だ。趣味の世界とは言え、シニア世代になってからも陶芸や絵画を熱心に学ぶ人たちがいる。そんな“学ぶ楽しさ”の延長線上に考えてみるならば、日本版「リスキリング」も、さらに順調に進んでいくのではないだろうか。
【東西南北論説風(605) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】