「収入証紙」を廃止する動きが加速、オンライン決済の波は「収入印紙」へも?
60年の歴史にピリオドが打たれる。岐阜県は、運転免許証の更新など手数料を徴収する際に使用している「収入証紙」を廃止することになった。岐阜県議会の12月定例会で決まり、2025年12月31日をもって販売を終了する。すでに東京都などは廃止しているが、東海3県では初めての廃止となる。
「収入証紙」その歴史と用途
「収入証紙」は、都道府県など地方公共団体が手数料や使用料を徴収するための証票。あらかじめ購入することで「支払った」という証明になる。岐阜県の出納管理課によると、最もよく使われるのは、運転免許証の更新。その他では、自動車の車庫証明や、工事などの際の道路使用許可ということだ。
「収入証紙」の歴史をたどると、1963年(昭和38年)に地方自治法が整備されて、それぞれの自治体が条例を作って導入した。その理由は、役所での現金の扱いを限定するため。現金は不正や汚職などの原因になりかねないという考えから、現金を扱えるのは出納係など会計に関わる部署に限定した。このため、運転免許センターなどの窓口業務では、現金を扱わずに「収入証紙」を導入したのである。
各自治体によって千差万別
額面は1円から1万円までで、それぞれの自治体によって、発行される種類の数も違う。岐阜県は14種類、東海3県では三重県も同じ14種類だが、愛知県は19種類である。図柄もそれぞれに個性があり、岐阜県は県の花であるレンゲソウである。愛知県や三重県は当初、それぞれの県庁がデザインされていたが、現在は、サクラの花と唐草になっている。富山県は、立山連峰の山々が描かれている。
パスポートは独特の“共存”
パスポートの取得にも、この「収入証紙」が必要である。同時に「収入印紙」も必要だ。例えば、10年有効のパスポート取得には、1万6,000円かかるが、「収入証紙」は2,000円分、これは地方自治体の収入になる。残りの1万4,000円分が「収入印紙」で、こちらは国に納める費用になる。
「収入印紙」の歴史は古い
その「収入印紙」は、国が発行する「証票」で、パスポートのように国に払う収納金や税金を納める時に使用される。「収入証紙」が、横に長い長方形なのに対し、「収入印紙」はオーソドックスな郵便切手の形に似ている。歴史は「収入証紙」よりも随分古い。もともと18世紀に英国で生まれた、何かを買った時にかかる物品税を納めた証明として、商品に直接貼り付けたという。明治時代に入って、ヨーロッパからこの制度が日本に伝わった。1872年(明治5年)に、日本で最初の収入印紙が発行された。
国に支払う納税の証し
使用されるのは、主に3つである。まず「契約書に貼る」。企業同士の契約、不動産の売買契約、工事の請負契約、預貯金の証書などが該当する。次に「領収書に貼る」。記載された金額が5万円以上の場合は「収入印紙」が必要になる。そして「国への手数料」。司法試験や公認会計士など国家試験の受験手数料にも利用される。パスポートのように「収入証紙」と“共存”する、珍しいケースもある。
額面10万円まである!
「収入印紙」の額面は1円から10万円まで、合わせて31種類発行されている。役所や法務局の他、身近なところでは、コンビニエンスストアや郵便局でも販売されている。最も利用されるのは200円で、1円はほとんど使われていない。ただ、1円は“最少の貨幣単位”であるため、何かの場合に備えて、発行されているとのこと。逆に最大の10万円という「収入印紙」が必要な場合は、受け取り額が「3億円超え5億円以下」という契約の場合となる。図柄は全種類ともにサクラの花であり、額面によって色分けされている。
時代の波と「収入証紙」
話を「収入証紙」に戻すと、今回の岐阜県での廃止は、全国で11都府県目となる。印刷代や証紙の販売を委託する金融機関への手数料など、廃止によって年間8,200万円の経費削減が見込まれている。コストカットのメリットは大きい。オンラインなどの電子決済が増えて、現金などを使わないキャッシュレス時代は加速している。
電子契約の「収入印紙」は不要
その波は、もう一方の「収入印紙」にも押し寄せる。印紙税法には「文書の作成者は印紙税を納める必要がある」と規定されているが、これは“紙”の文書が対象となっている。オンラインでの電子データは“紙ではない”。電子契約を締結することは「電子データを送信すること」であり、課税文書の作成には当たらない。このため、印紙税は必要なく、「収入印紙」も必要なくなるのだ。ますます出番は少なくなりそうだ。
キャッシュレス時代が進む中、ほとんど使われない1円分まで印刷されている「収入印紙」。日本に誕生して150年以上になるが、岐阜県はじめ廃止の動きが加速している「収入証紙」と共に、大きな曲がり角を迎えようとしているようだ。
【東西南北論説風(547) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】