名古屋に“第3の人気エリア”誕生なるか?動き出す金山総合駅周辺の再開発
地理的に見ると、名古屋市の真ん中に位置するのが「金山(かなやま)」地区である。名古屋城と熱田神宮を結ぶ“タテ軸”のほぼ上にあり、歴史的にも古くから交通の要所だった。その金山エリアが、駅を中心に生まれ変わろうとしている。
不便だった昭和の時代
筆者にとって「金山駅」は、学生時代から20代後半まで、通学と通勤で慣れ親しんだ場所だった。昭和の時代は、国鉄(現JR)、名鉄、そして市営地下鉄、3つの駅がそれぞれ離れた場所にあって、その乗り換えは不便だった。特に名鉄は、幹線道路をはさんで最も東に位置し、狭い坂道を下った先にあった。雨の日にはいちいち傘を差して、坂道を上り下り移動する、多くの利用客の風景があった。
生まれ変わった総合駅
そんな金山駅が、平成の時代に生まれ変わった。1989年(平成元年)に3つの鉄道駅が1つのターミナルに入った。「金山総合駅」の誕生である。これは画期的なことだった。乗り換えや乗り継ぎも格段に便利になった。現在は、一日の駅の利用客数も50万人に迫る勢いで、110万人余りの名古屋駅に次いで2番目の多さである。海外への玄関口であるセントレア(中部国際空港)へ直結するターミナル駅でもある。駅の周辺も整備が進み、南側には、ホテルや美術館が入る「金山南ビル」ができ、北側には、大規模な商業施設「アスナル金山」が、2005年(平成17年)にオープンした。数々のレストラン、衣料品店、書店、薬局などに加え、イベント用のスペースもあり、連日にぎわっている。
再開発の「時が来た!」
しかし、駅の利用客数に比べて、金山エリアの人のにぎわいは「アスナル金山」だけにとどまる傾向にあり、周辺への拡がりは今ひとつである。せっかくの金山総合駅も“乗り換えるだけの駅”となっている。名古屋市では、名古屋駅周辺、栄地区に続く“第3のエリア”として、金山駅周辺の再開発に本腰を入れることになった。駅の利用客を周辺のエリアにまで誘い出したい。「アスナル金山」は2028年に、名古屋まちづくり公社に土地を貸している期限を迎える。その北側にあるNiterra日本特殊陶業市民会館も建て直しの時期を迎えようとしている。「時は来た!」のである。
テーマは「文化と芸術」
名古屋市が発表した再開発のコンセプトは「人・文化・芸術とともに育つまち」。特に名古屋駅や栄との差別化を図るテーマが「文化と芸術」である。駅の北にある市民会館、名古屋フィルハーモニー交響楽団の拠点「音楽プラザ」、駅の南にある「金山南ビル美術館棟」など、既存の条件を活かしながら「アートな街づくり」の青写真を描いている。その主役になるのが「アスナル金山」である。
アスナル金山の変身は?
現在は3階建てだが、これを高い階の高層ビルに建て替えて、ホテルやオフィスを誘致する。現在の市民会館には大と中2つのホールがあるが、それに続く3つ目のホール(劇場)も、アスナルの中に整備する。金山地区は法律の上で、敷地的にも空間的にも、まだ建物を建設できる余裕が十分にある。さらに、アスナルの北側にあるビルを、名古屋市が土地ごと取得して、開放感のある大きな広場を作る構想もある。野外コンサートなどの開催も可能になる。市民会館の建て直しと共に、北側のエリアは「人・文化・芸術とともに育つまち」のシンボルスペースとなる。
降りて遊びたくなる町
名古屋市によると、現在の計画では2030年に計画を決定し、その2年後の2032年度に建設をスタートする。本来なら、2027年に東京と名古屋間を走る予定だったリニア中央新幹線の開業が大幅に遅れたという不確定要素のため、名古屋を訪れる観光客やビジネス客の数がどうなるか、見通しが立ちにくいのが現状である。しかし、好調なインバウンド、特に、中部国際空港から名古屋市内、さらに、飛騨高山などの観光地を訪れる外国人旅行客は、必ず金山駅を通る。「降りて遊びたくなる金山の町」実現に向けて、期待は高まりつつある。
名古屋駅周辺と栄地区に続く、第3の人気エリアが名古屋に誕生するかどうか。かつて来る日も来る日も、その駅を利用していたひとりとしても、注視していきたい再開発計画である。
【東西南北論説風(544) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】