“ふるさとの味”手作り漬物が姿を消していく?販売の新たなルールが始まった

“ふるさとの味”手作り漬物が姿を消していく?販売の新たなルールが始まった CBCテレビ:画像『写真AC』より「沖縄の漬物」

たくあん、野沢菜、白菜、しば漬け、そして、ぬか味噌漬け。あなたはどんな漬物が好きですか?全国の野菜の調理方法で、圧倒的に多いのが漬物だという。日本の食卓には欠かせない一品、そんな漬物が大きな節目を迎えた。

手作り島らっきょう

CBCテレビ:画像「那覇市第一牧志公設市場」

沖縄に行くと、必ず立ち寄る場所のひとつに“那覇の台所”とも呼ばれる第一牧志公設市場がある。市場の1階には、魚、肉、そして野菜など沢山の店が並ぶが、名物のひとつに漬物店がある。年配の“おばあ”が自分で作った島らっきょうなどの漬物を山積みにして売っていて、気軽に試食もさせてくれる。販売風景も、そして漬物自体も、何とも“味がある”のだが、泡盛のアテに最高の、あの島らっきょうも影響を受けているのだろう。食品衛生法の改正によってである。

食中毒事件が発端

厚生労働省と消費者庁が管轄する「食品衛生法」が2021年(令和3年)に改正された。きっかけは、食中毒事件だった。2012年(平成24年)に、札幌市で、白菜の浅漬けを食べた169人が腸管出血性大腸菌0-157に感染し、子どもを含む8人が死亡した。その2年後にも、今度は静岡市で、露店の冷やしきゅうりの浅漬けを食べたおよそ500人が食中毒にかかる被害があった。そこで、衛生的な製造を徹底するため、食品衛生法を改正することになった。3年間の経過措置期間を経て、2024年6月から完全実施された。

国際的ルールで「営業許可」

漬物を製造して販売するためには、保健所の「営業許可」が必要になったのである。この許可を得るためには、漬物を製造する施設などが“一定の衛生基準を満たす”必要がある。調理する場所は、自宅の台所とは別に営業専用の調理場が必要になった。手洗い専用の洗い場も必要な上、水道の栓は手でひねるハンドル式は禁止、手で触れずに水が出る仕組みが求められる。床面には排水溝、換気施設や照明設備も基準が決められた。販売する際も、ショーケースが必要になった。これらはすべて、国際的な食品衛生管理手法(HACCP=Hazard Analysis and Critical Control Point)の基準によるものである。

漬物作り廃業の農家

CBCテレビ:画像『写真AC』より「たくあん漬け作業」

漬物は、全国の農家でも“副業”として、それぞれの土地の野菜を使って製造されてきた。「道の駅」や地元の直売所では人気商品である。大量生産されたものと違って、“ふるさとのお母さんの味”として親しまれてきた。そこに、今回やって来たのが国際的な衛生基準である。これまで通りに手作りの漬物を販売する「営業許可」を取るために、施設を整えなければならない。かといって、こうした手作りの漬物を製造しているのは、年配の人たちが多い。施設改良に莫大な費用をかけるよりは、これを機に漬物作りをやめてしまった人も数多くいる。それが現実なのだ。

食文化の伝承も大切

“ふるさとの味”自家製の漬物は、日本の郷土料理のひとつであり、食文化の象徴でもある。それがルールの変更によって姿を消していく。補助金を用意して、漬物作りを支援している自治体もあるが、その数は限られている。それぞれの家庭の中では「地元の野菜を使って、代々受け継がれてきた味の漬物を作る」という伝統は受け継がれるだろうが、その味を一般の多くの人が共有することはできなくなっていく。“食文化の伝承”という意味でも、それはとても残念なことである。

衛生上の管理はもちろん重要であるが、その一方で、日本の伝統の味を残していくことも大切なことであろう。衛生面と予算面、そのどちらをも満たす“味のある”妙策はないものだろうか。日本の手作り漬物たちが、じっとそれを待っている。

          
【東西南北論説風(496)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

オススメ関連コンテンツ

あなたにオススメ

RECOMMENDATION

エンタメ

ENTERTAINMENT

スポーツ

SPORTS

グルメ

GOURMET

生活

LIFE