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水の事故を防ぐ“ライフセーバー”、人手不足の現状と命を守るための大切なこと

水の事故を防ぐ“ライフセーバー”、人手不足の現状と命を守るための大切なこと
CBCテレビ:画像『写真AC』より「プールの監視台」

海水浴場で背の高い椅子に座って海を監視したり、砂浜を巡回して海水浴客に声をかけたりするスタッフをご存知の方も多いだろう。「ライフセーバー(Life Saver)」、日本語に訳せば「命を救う人」。実は日本におけるライフセーバーの人数は、海水浴場の数に比べて、かなり少ないのである。

新型コロナ禍による影響

救命活動にあたるライフセービングは、海や川など海辺の事故の救助、蘇生、そして応急措置などを役割として、ヨーロッパで生まれた。日本においては、大学生などがアルバイトとして担当する場合も多いが、2020年(令和2年)からの新型コロナウイルスによる世界的な感染拡大で、ライフセーバーも大きな影響を受けた。大学によってライフセービングのサークルを持っているところもあるが、コロナ禍で休校になるなど、人材育成の引継ぎができなかったそうだ。

回復してきた希望者数

公益財団法人・日本ライフセービング協会によると、コロナ禍が節目を迎えると共に、再びライフセーバーへの“成り手”も回復してきたという。協会の発表によると、2023年に何らかの認定資格を手にした人は2,414人で、ほぼコロナ禍の前の状態に戻ってきたとのこと。しかし、それで課題が解決したかと言えばそうではない。そもそも、ライフセーバーの絶対数が足りていないのである。

海水浴場の2割しかいない

海上保安庁による最新のまとめで、日本全国にある海水浴場の数は1,038か所。この内、認定ライフセーバーがいるのは215か所で、全体のわずか2割である。それ以外の海水浴場は、自前のアルバイト監視員を置いたり、「海の家」のスタッフが交代で対応したり、それぞれの地域によって、海の安全を守っている。その背景には、日本におけるライフセーバーと言う存在の“立場”の問題があると協会では話す。

ボランティアへ頼る現状

日本の場合、ライフセーバーの仕事は、夏の海水浴シーズンである7月と8月、主にこの2か月間に限られる。雇用はこの期間だけとなり、大学生が夏休みを利用してアルバイト勤務することはあるものの、それ以外の人は、1年の残り10か月間は何か別の仕事を見つけなければいけない。社会人が長期休暇を取ってライフセービングの仕事に参加したいと思っても、生活が安定しないため、数がなかなか増えないのである。多くはボランティアに頼らざるを得ない。

海外の立場は「公務員」

CBCテレビ:画像『写真AC』より「海のライフガード・監視塔」

実は、海外の場合は事情が違う。米国やオーストラリアなどは、ライフセーバーではなく「ライフガード」と呼ぶのだが、その立場は“公務員”なのである。ライフガードの人たちは、警察官や消防隊員と同じ、公的な雇用なのだ。年間を通して給料も保障されていて、スタッフの人数も安定的に確保されている。ボランティアに頼る日本のライフセーバーとは、そもそも立場自体が決定的に違うのである。

沖縄での新たな動き

日本ライフセービング協会によると、問題の解消に向けて、沖縄県で新たな動きがあるそうだ。沖縄は温暖な気候のため、海に入って遊ぶことができる期間が長い。4月から10月の半年間以上、場合によってはもっと長く、海で泳ぐことができる。冬の時期も海辺へ訪れる人が多いため、巡回パトロールなどライフセーバーの活躍の場も多く、そして長い。年間を通して、ライフセービングを確保する検討も始まった。日本におけるライフセーバー環境を変える突破口になるかどうか。

海水浴客の減少

一方で、ライフセーバーたちの活躍の場にも変化が起きている。海水浴をする人の数が少なくなってきて、閉鎖を余儀なくされる海水浴場も目立つようになっている。日本生産性本部の「レジャー白書」でも、40年ほど前のピーク時には3,700万人以上を数えた海水浴客の数も、コロナ禍直前には600万人台と減り、最新の調査では300万人ほどだという。レジャーの多様化、海で遊ぶことが好きな子ども自体の数が減少する少子化、そして、日焼けなどを避けたい厳しい猛暑など、様々な理由が挙げられる。

時代の波“負のスパイラル”

CBCテレビ:画像『写真AC』より「AED」

ライフセーバーの仕事は、本来「溺れた人を救助する」ためではなく「事故を未然に防ぐ」ためである。まずは、自分の命は自分で守ることが大切であり、日本ライフセービング協会でも、各自が溺れないようにしたり、人命救助のためAEDなど医療機器の使い方を教えたり、そんな講習会に力を入れている。しかし、海水浴場など特に子どもたちが水辺で遊ぶ機会が減り、水との触れ合いが少なくなると、水の危険や命を守ることを学ぶ場も限られるようになる。そんな“負のスパイラル”が目の前に横たわっている。

「命を守る」その延長線上に、ライフセーバーの仕事がある。日本ライフセービング協会もそんな現状を憂いながら、基本的なことを学ぶ講習会などに、是非関心を持って参加してほしいと呼びかけている。ライフセーバーの現状からも、時代の1つの断面を見ることができるようだ。
          
【東西南北論説風(514)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

(参考)・公益財団法人 日本ライフセービング協会「アニュアルレポート2023」
    ・日本生産性本部「レジャー白書」

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