偶然がたぐりよせた「ロッキード・エレクトラ」ものがたり
きっかけはテレビドラマ
偶然が重なった。最初はテレビ番組。1月30日、ザッピング中に何気なく見ていたドラマに出てきた機体に目が吸い寄せられた。垂直尾翼が2つある銀色のレトロモダンな機体。数々の歴史的エピソードに彩られたロッキード・エレクトラに特徴がぴったりだ。
史上最高の設計者
ロッキード・エレクトラは、アメリカが生んだ史上最高の航空機設計技術者とされる、クラレンス“ケリー”ジョンソンがロッキード社入社前の学生のころから開発にかかわった旅客機で、彼の自伝(*)によると、特徴的な2枚の垂直尾翼は、1933年、まだ入社したての彼が、学生時代の風洞実験結果をもとに、社の上層部を説得して実現させたものという。
(*)「史上最高の航空機設計者 ケリー・ジョンソン自らの人生を語る プレアデス出版」
歴史に残るロッキード・エレクトラ その1
その5年後の1938年、ヒトラーらとのミュンヘン会談からロンドンに戻ったイギリスのチェンバレン首相が、「全欧州に平和が!」と高らかに宣言する有名なニュース映像があるが(翌年のヒトラーのポーランド侵攻でその平和はあっさりと破られてしまう)、その後ろに映っている機体、つまり、チェンバレン首相の搭乗機がロッキード・エレクトラだった。
史上最高の設計者のゆえん
私の見たドラマは、放送局のガイドやAppleTV+の解説などによると、1984年に制作された「特攻野郎Aチームシーズン2 ベネズエラ国境麻薬争奪戦」のようだ。これまでエレクトラ機の動画は、モノクロでは見たことがある。尾翼以外のいくつかの特徴もあり、私はドラマで見たのがエレクトラ機と信じているのだが、そうだとするとカラーフィルム動画に接するのははじめての経験だ。ストーリーに加えて、優美なその姿をカラーで十分堪能させてもらった。エレクトラ機の実機初飛行は1934年だから、50年前に開発された機体が、当時、なお、ドラマの重要なシーンに使われたことになる。
実は、ケリー・ジョンソンが開発にかかわった機体は、このように長期にわたって運用されるものがいくつかある。史上最高の設計者とされるゆえんだ。例えば高高度偵察機U-2。1962年のキューバ危機のきっかけとなったキューバのミサイル基地発見(2000年の映画「13デイズ」の重要なシーンとなっている)、旧ソ連領内の撃墜事件など、東西冷戦期の歴史的場面に何度も登場するU-2は、初飛行が1955年。改良は重ねられているが、U-2は、なんと、いまでも現役で高度な任務に使われているという。
歴史の残るロッキード・エレクトラ その2
エレクトラ機が歴史に登場するのはミュンヘン会談だけでない。1937年、航空機による世界一周を目指したアメリカ人で、当時の言葉でいう女流飛行家、アメリア・イアハートが、成功目前に南太平洋を飛行中、消息を絶った際に使われた機体、ということでも知られている。アメリア・イアハートについては、2006年の映画「ナイトミュージアム2」でも重要な役どころで出てくるので、ご記憶の方もいらっしゃるだろう。
偶然が重なるとは
さて、偶然が重なる、とは、こういうことだ。ドラマを見た翌日、アメリア・イアハート搭乗機ではないかという海中のソナー画像をCNNなどがインターネットで報じた記事に接したのだ。アメリカの海洋探索会社が公開したものだという。今後、さらなる調査が必要だというが、公開された映像は2枚の垂直尾翼の特徴が出ているようにも見える。
ミステリーも?
イアハート機をめぐっては、ケリー・ジョンソンも自伝に記載している俗説があった。日米関係の悪化を背景に、イアハートが日本の軍事施設の偵察任務を引き受けていたのではないかというものだ。これについては、真偽不明のミステリーじみた尾ひれもつくが、ケリー・ジョンソン自身が偵察任務に否定的コメントを残しているし、当時、イアハートの捜索に日本が積極的に協力したという史実もあるようだ。
真相は明らかになるのか?
ソナー画像がイアハート機なのか、明らかになるのはまだ先の話。まして、消息を絶った原因が明らかになるかどうかは、その先の先の話だ。だが、偶然見かけたドラマの映像がきっかけで、天才とされる航空機設計者と、それにまつわる90年近く前の様々な出来事に思いをはせることとなった。
CBCテレビ論説室長 横地昭仁