懐かしきかな「ラジカセ」の奥義!好きな曲のダビングに熱中した昭和の時代

懐かしきかな「ラジカセ」の奥義!好きな曲のダビングに熱中した昭和の時代

音楽配信のサブスクリプションなどなかった昭和の時代、好きな曲を自分で何度も楽しむ方法は、レコードなど買わなければ、ラジオからのテープへの録音だった。そして、それを飛躍的に進化させたものこそ「ラジカセ」、ラジオカセットレコーダーだった。

ラジカセの登場に沸く

「ラジカセ」は、1967年(昭和42年)に発売された。それまでは、カセットテープレコーダーにマイクを接続したり、専用のコードをラジオとの間に接続したり、そんな方法で録音をしていた。カセットテープレコーダーにラジオチューナーを入れ込んだ、この新しい音楽機器は、1970年代に入ると商品名を短く読み「ラジカセ」と呼ばれるようになった。何より、ラジオ番組の録音には“無類の強さ”を発揮した。1台の機器の中で、ダビング録音という作業が完結するからである。

こうしてラジオを録音した

CBCテレビ:画像『写真AC』より「ラジカセ」

好きな歌や曲を「ラジカセ」でカセットテープに録音する方法。チューニングしてラジオ番組を決める。歌を録音する時は、ベストテンなどの歌番組を選ぶ。その上で、カセットテープの録音を始めたい部分を頭出しして、「一時停止」ボタンを押したまま同時に「録音(REC)」ボタンを押してスタンバイ。ディスクジョッキーの曲紹介が終わった直後に、一時停止を解除すると録音がスタートするという、何とも手の込んだ方法だった。曲が終わると同時に録音をストップする。その途中に、トイレへ行くなど他事をやることはご法度、緊張の時間だった。

録音“四苦八苦”の思い出

CBCテレビ:画像『写真AC』より「カセットテープ」

当時の「ラジカセ」での録音では、もちろん編集はできない。残したい曲は、録音した順のままである。時おり、ディスクジョッキーの曲紹介がイントロにかかる場合があったが、これは悲しい瞬間だった。さらに、曲がフルコーラスではなく途中で終わる時もあった。せっかくの“緊張の作業”がうまくいかないことも度々あった。さらに厄介だったのは、テープの録音可能な残り時間が分からないことだった。60分テープは片面30分、90分テープは片面45分、曲の録音途中でテープ切れを避けるため、目分量でテープをチェックしたが、たまに見誤ることがある。それを回避しようと、テープを“カラ再生”して、残り時間をリアルに計ったこともあった。今ふり返れば、こうしたアナログ録音作業に、真剣に取り組んでいたものだ。

音楽を“持ち運べる”魅力

アンプもスピーカーも付いていて、コンパクトだが本格的な音響機器である「ラジカセ」。もうひとつの大きな魅力は、持ち運びが可能だったことだ。片手で持てるように、取っ手も付いていた。乾電池で動かせるため、野外のレジャーや旅行にも持参できた。列車の窓枠にラジカセを乗せて、音楽を楽しみながら旅をする若者たちの姿もよく見かけたものだ。レコードプレーヤーは大きすぎる上、電源が必要であり、持ち運びは困難だった。“音楽を持ち出せる”これが可能になったのも「ラジカセ」の魅力であろう。

姿を消していく「ラジカセ」

CBCテレビ:画像『写真AC』より「CDラジカセ」

やがて、カセットテープが2本入るラジカセが登場し、大きな課題であったテープ編集もできるようになった。1980年代後半には、カセットテープの代わりにCDプレーヤーとラジオを組み合わせた「CDラジカセ」が登場し、MDも組み込まれたが、同時にコンパクトさがなくなっていき、次第に人気は薄れていった。やがて音楽も、CDなどではなく、配信が主流になっていき、わざわざ機器を用意するまでもなく、携帯電話で“配信される”曲を楽しむ時代になった。

1970年代のニッポンで、音楽史をハード面で支えてきた「ラジカセ」。いつのまにか、レトロブームの中で「こんなものあったね」と、懐かしがられる存在となった。しかし、ラジオから流れてくる、ひとつの歌、ひとつの曲を手元に残すために、あれほど一心不乱に集中した時代は愛おしい。それはまぎれもなく、全力で音楽というものと向かい合った日々だった。
          
【東西南北論説風(469)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※『北辻利寿のニッポン記憶遺産』
昭和、平成、令和と時代が移りゆく中で、姿を消したもの、数が少なくなったもの、形を変えたもの、でも、心に留めておきたいものを、独自の視点で「ニッポン記憶遺産」として紹介するコラムです。
CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー(毎週水曜日)でもご紹介しています。

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