沖縄を見つめなければならない秋~激戦の知事選に思う~
熱い沖縄本を読んだ。真藤順丈さん著『宝島』である。
第二次大戦後の米軍占領下の沖縄を男女3人の若者の生き様を通して描いた大作だ。単行本にしておよそ550ページ。英雄だった仲間の失踪を背負いながら、1人は警察官に、1人は教師に、そしてもう1人は活動家に、それぞれの道を歩む。いや走る。それが交錯する。1959年の小学校への米軍機墜落事故や1970年のコザ騒動など、実際にあった歴史や実在の人物も入れ込みながら描かれた彼らの人生と沖縄の戦後史は火傷しそうなほどに熱い。
沖縄を好きな人間にとって沖縄を語ることは楽しい、しかし、むずかしい。彼の地に何度通っても常に新しい発見と懐かしい発見がある。その魅力を挙げれば話題は尽きない。しかし、同時に解決できていない問題も大きく横たわる。
例えば「料理」。
沖縄の味は年々注目を集めている。近海で獲れる魚はすぐに港から店に並ぶ。新鮮だ。刺身ももちろんだが、塩だけで煮る「マース煮」は素材そのものの味を潮の香りと共に楽しませてくれる。名物の豚は、ラフテー(角煮)やテビチ(豚足煮)などに加え、しゃぶしゃぶでの味わい方も人気を集めている。野菜の数もますます豊富だ。スーパーや市場に行くと様々な島野菜を買い込む観光客が増えている。皆、美味しいものを知っている。
例えば「観光」。
2017年度、沖縄県を訪れた観光客の数は957万9900人と初の900万台を記録した。5年連続の過去最高更新である。国内各地から本土と沖縄を結ぶ航空路線が増えたこと、そして海外からはアジアを中心に大型クルーズ船の寄港が増えたことが要因と沖縄県の観光政策課は分析している。それだけ琉球の風に魅了される人は多い。旅行先としての沖縄人気は上昇する一方だ。
例えば「人情」。
海沿いを走る路線バスに乗っていて度々見かける風景だが、乗客が小銭を持っていない時、ほとんどの運転手さん言う「いいよ~。次に乗るときに2回分払って」。
那覇市内の公設市場でのエピソード。持ち合わせのお金が足りなかった観光客に店のおばさんが言う「いいよ~。次に沖縄に来てくれた時に残りを払って」。こんな素敵な言葉をかけられたら再訪したくなるのが人情だ。
例えば「基地」いや目の前の「基地」。
沖縄本島中部にある恩納村の海岸にいると、轟音と共に頭上を横切る戦闘機に度々遭遇する。まぎれもなく基地の島なのである。米軍機のトラブルは数多く起き、冒頭の『宝島』でもそんな基地の存在は重く描かれている。嘉手納と並ぶ主要基地である宜野湾市普天間飛行場は、1995年の米兵による少女暴行事件をきっかけに返還へと動き始めたが、この問題のその後の変遷は沖縄の人たちを翻弄し続け今日に至っている。
最大の争点は普天間飛行場の移設問題
今、沖縄は新たなリーダーを選ぶ選挙戦の真っ只中である。翁長雄志知事が8月に急逝したことを受けて年末の知事選予定が早まった。
最大の争点は普天間飛行場の移設問題、その移設先としての「辺野古」問題の行方である。この「辺野古」という言葉を、くり返し口にする候補とほとんど口にしない候補、選挙戦において論議はかみ合っていない。しかしそれはあくまでも候補者同士の戦いであって、投票権を持つ沖縄の人たちはそうしたすべてのことを踏まえた上で一票を投じることになる。そしてその選択結果は重い。
選挙を経て何がどう動くのか動かないのか、様々なシミュレーションが語られるが、まずは沖縄の人たちの選択を待ちたい。そして投票権を持たない私たちにできることは、そんな沖縄県知事選をとにかく見つめることである。しっかり注目することである。
最後まで激しく火傷しそうな選挙戦になるだろう。その選挙戦が沖縄の明日を語る有意義な論争でありますように、そして選挙戦の傷跡が深く残らない戦いでありますように。