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沖縄伝統の酒回し飲み「オトーリ」に新型コロナが“待った!”をかけた

沖縄伝統の酒回し飲み「オトーリ」に新型コロナが“待った!”をかけた
画像『写真AC』より泡盛と琉球ガラスの酒器

中学からの学生時代ずっと卓球部に所属していた。大学卓球では下部リーグ戦ながらチームが優勝、手にした優勝カップにビールを注ぎ、卓球部の先輩後輩と回し飲みして、美酒に浸った思い出がある。そんな祝勝会も遠い昔に思えてしまう。新型コロナウイルスの影響である。

人と人の絆を結ぶ「オトーリ」

沖縄県の宮古島には「オトーリ」と呼ばれる宴席での習慣がある。ひと言でいえば“酒の回し飲み”、沖縄だからまず泡盛が思い浮かぶ。
参加メンバーが車座になって、まず「親」を決める。親は宴の始まりを告げる口上を述べ、杯にお酒を注ぎ、隣の人に手渡す。杯を受けた人はそれを飲み干し、再び杯を親に返す。親は新たな酒を注ぎ、また次の人へ。こうして全員が一周したら、最後に親は御礼の口上をしてもう一杯飲み、次の親を指名する。
その後は同じローテーションの繰り返し。親は前後の2杯を空けるので、「オトーリ」では参加人数分プラス1杯のお酒を飲むことになる。例えば10人の宴ならば11杯。同じ杯で酩酊すれば人と人の絆はますまず深まる?それが「オトーリ」の妙味。16世紀の琉球王朝時代から始まったとされる。当時は貴重品だった泡盛を仲間で分け合うことに由来するそうだ。

感染リスクで沖縄県が“注意報”

その伝統の「オトーリ」に新型コロナが待ったをかけた。沖縄県は2020年10月、この「オトーリ」が感染の拡大につながるとして、自粛を呼びかけた。いわゆる“オトーリ注意報”だ。
その背景には、宮古島や石垣島などがある宮古・八重山地方で、感染が拡大している実態がある。こうした離島は感染者のための病床(ベッド)数が少ない。もしひっ迫すれば重症患者を本島に運ばなければならないが、例えば宮古島からは300キロほど離れている。沖縄県は、警戒度を最も高いレベルの「フェーズ5」に引き上げ、特に島の繁華街に注意を呼びかけると共に、宮古島には伝統の“酒の回し飲み”にもストップをかけたのだった。

伝統行事を新型コロナが直撃

新型コロナウイルスについては「人口10万人あたりの感染者数」という指標があるが。ここしばらく沖縄県は東京都の2倍以上の感染ペースを続けている。そんな中「オトーリ」については、お酒を回し飲みする度に杯をしっかり拭いたとしても、微妙な唾液が残ってしまい感染リスクも残ると言う。専門的にこう指摘されると、さすがに「オトーリ」もこれまで“通り”とはいかないようだ。琉球文化、それも島に伝わる地域文化とはいえ、コロナ禍が収まるまでしばらくは、伝統のスタイルも控えることになりそうだ。

ユネスコ遺産「パーントゥ」も中止

画像『写真AC』より宮古島 パーントゥ

宮古島で「オトーリ」同様に新型コロナによって影響を受けた伝統行事に、もうひとつ「パーントゥ」という祭りがある。「パーントゥ」は宮古島の方言で「鬼」「妖怪」を意味する。全身に泥を塗って、身体に蔓(つる)を巻きつけた仮面の男3人が、奇声を発しながら地区の家々を回って、人々や新築の家々に泥を塗りつける。この泥が厄を払うと言われている。この種の祭りでは秋田県のナマハゲが有名だが、宮古島は多くの人や物が泥だらけになるからインパクトがある。
「パーントゥ」は2018年にナマハゲなどと共に、ユネスコの無形文化遺産に登録された。世界的にも認められ、島にとっては大切な行事である。毎年旧暦の9月に2日間行われ、2020年も10月18日から2日間予定されていた。しかし、新型コロナ禍の中、ソーシャルディスタンスが保てない上、泥を塗るという行為はまさに「接触」。神様役の泥だらけの「パーントゥ」も仮面の上にマスクを付けるわけにもいかず中止となった。島の人たちもとても残念がっていた。

プロ野球の優勝胴上げまで影響

気を緩めることのできない新型コロナ感染への警戒が続く中、全国各地の伝統行事は大きな影響を受けている。名古屋では、秋の風物詩である名古屋まつりも中止になった。織田信長、豊臣秀吉そして徳川家康の“三英傑”が闊歩する英傑行列も2020年は見ることができない。飛騨路では高山祭も中止。プロ野球のペナントレースでもリーグ優勝したチームの胴上げなし。祝勝会での恒例ビールかけもなし。距離を保っての万歳三唱などで喜びを分かち合った。ハロウィーンを経て、七五三、クリスマス、そしてお正月と、新型コロナ禍の中、かつて経験したことのない対応が迫られている。

宮古島では、それぞれ別々のグラスに酒を注いで乾杯するという新たな「オトーリ」スタイルが登場し始めたそうだ。
人と人とのつながりを断ち切ろうとする新型ウイルス。しかし、それに負けない“絆”は、人々の心意気と知恵の中にこそ生き続けると信じたい。

【東西南北論説風(190) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

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