長野「小渋ダム」の中に眠る廃隧道!?「三六災害」によって廃村に至った歴史を“道”から紐解く旅

ミキの昴生と亜生がMCを務める、全国の道に特化したバラエティ番組『道との遭遇』。今回は、全国800か所以上の道を巡ってきた道マニア歴20年の石井あつこさんが、長野県にある“廃道”を巡ります。※廃道は危険ですので、むやみに立ち入らないでください。
災害の歴史を紐解く!「三六災害」によって流された橋の遺構

長野県の南部に位置する大鹿村(おおしかむら)を訪れた石井さん。
(道マニア・石井あつこさん)
「大鹿村に流れる『小渋(こしぶ)川』は、『天竜川』の支流の中でも最も荒れ川。それを、どうやって乗り越えてきたのか、どうやって今に繋がるのか、廃道を見ることで辿っていきたい」
伊那山地と南アルプスに囲まれ、東西には最も荒れ川と言われた「小渋川」が流れる大鹿村。

さらに南北にも川が流れており、急峻な地形によって大雨の被害を受けやすく、古くから川の氾濫や土砂災害に悩まされてきましたが、昭和44年に「小渋ダム」が造られ、新たに道路も付け替えらたことで村の交通の利便性が向上しました。
その歴史を辿るべく、まずは国道152号を南下して災害の歴史を紐解けるという道へ。
(道マニア・石井あつこさん)
「この国道152号は細い山道だが、ここにはかつて100軒以上の家があった」

大鹿村の北川地区はかつて110戸の家が並ぶ集落でしたが、“ある出来事”がきっかけで住民たちは離村することになりました。国道152号の旧道から「鹿塩川(かしおがわ)」の川岸へ行くと、コンクリートの構造物が姿を現します。
(道マニア・石井あつこさん)
「国道152号の旧道の橋の一部。橋台も路盤もなくなってしまって、残っているのが橋の真ん中のところだけ」
石井さんがこの旧道に残る橋の遺構を見せたかった理由が…

(道マニア・石井あつこさん)
「昭和36年6月の終盤に起こった、通称『三六(さぶろく)災害』という未曾有の豪雨が襲って、一週間で年間降水量の3割が降った。急峻な地形も相まって土砂崩落が起こり、北川の集落は埋没してしまい、離村して今は無人になっている」
昭和36年6月、梅雨前線の停滞と台風の接近に伴う集中豪雨が引き金となり、未曾有の大災害となった、通称「三六災害」。
長野県南部も各地で土砂災害や川の氾濫が起こり、行方不明者は136名、家屋の崩壊は1500戸に及び、甚大な被害を受けました。

大鹿村の北川地区も鹿塩川の氾濫による鉄砲水に襲われ、建物や農地が崩壊し、集落はこの災害を機に廃村に。この廃橋もかつては鹿塩川に架かっていましたが、三六災害により崩壊し、流されてしまいました。
そして、災害から3年後の昭和39年。新たに「北川橋」が架けられ、現在の国道152号の一部としていき続けています。
「大西山」の山津波によって廃村となった歴史

続いては、三六災害の被害の大きさを思い知らされる場所があるという、村の中心部へ。すると現れたのは、大崩壊の痕跡を残す標高1741mの「大西山(おおにしやま)」。
(道マニア・石井あつこさん)
「三六災害で山津波が起きて崩れた」
続けて、「この地域は、関東から九州にかけて日本列島を縦断する国内最大の断層『中央構造線』が走っているため、崩壊しやすい地質」と石井さん。
三六災害によって山の斜面が崩壊し、大量の土砂が津波のように流される“山津波”となり、大鹿村を襲いました。

(道マニア・石井あつこさん)
「崩れた際の爆風と土砂で甚大な被害を受け、村に往来するための村道や県道、林道すべてが不通になった。“死の村と化した”という表現も記録に残っているほど、被害は大きかった」
災害により大鹿村周辺は壊滅的な被害を受けましたが、昭和44年の「小渋ダム」建設に伴い、周辺の道路は整備されました。
県道の旧旧道が残っている!?「小渋ダム」に眠る廃隧道の一部

最後は、小渋川の下流にある「小渋ダム」へ。
(道マニア・石井あつこさん)
「小渋ダムの完成によって、かつての県道は水没してしまったが、施設内には水没を免れた県道の廃道が一部残っている」
さっそく、ダムが完成するまで使われていた県道59号の旧旧道を見に行きます。

「県道59号は、付け替えられる前はもっと低い位置にあった」と石井さん。ダムの上から下方を覗くと、かつての県道59号の隧道が下へ降りる階段の先に見えます。
今回は特別な許可を得て、ダム巡視路から小渋ダムが完成する前に使われていた旧旧道の隧道を間近で観察させてもらえることに。
崩落の危険があるため隧道の中に入れませんが、入口のフェンスを開けてもらうことができ、そこから奥を覗かせてもらいます。

(道マニア・石井あつこさん)
「内部は荒々しい素掘り。トラックが1台通れるほどの高さと幅員がある。おそらく戦前ぐらいまでに隧道が竣工し、使われていた」
小渋川沿いを走る県道59号の旧旧道も、三六災害によって全線が被災。迅速な復旧が望まれましたが、すでに小渋ダムの工事計画が進んでおり、将来的には水没することが決まっていたため、新たな道路を造ることに。
そして、災害から3年後の昭和39年。現在の県道の旧道にあたる道路が完成しました。
石井さんは、現在も残る反対側の坑口に行ってみることに。

(道マニア・石井あつこさん)
「旧旧道の痕跡を残しているのが、この80m区間のみ。廃止されて60年以上経っているとは思えないぐらいきれい」
もともと120mほどあった隧道ですが、ダムのアーチと重なった部分が分断されて現在は80mに。東側にもう1本隧道がありましたが、ダム湖に沈み、その姿は見ることができないそうです。
(道マニア・石井あつこさん)
「災害に思いを馳せて、未来に繋いでいかないといけない。ちゃんと記憶していくことが大事」
CBCテレビ「道との遭遇」2025年9月23日(火)午後11時56分放送より
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