「宏斗?金丸?大野?ちがうちがう…今年はオレだ!」松葉貴大の井上竜初勝利の裏で結びついた3つの意企

「とある妄想しがちなファンのドラゴンズ見聞録」
CBCテレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜日午後12時54分から東海エリアで生放送)を見たコラム
開幕からあっという間に3カードが終わり、寒さや故障もあって打撃陣の調子が上がりきらずまだエンジン全開とはいかない。その中で、先発、救援ともに投手陣の力強さが一際輝いている。それでも勝ちに直結するというわけにはいかない。プロ野球において、勝ち星という不確実性の上で成り立つ結果を集めて優勝を争うという部分が面白さでもある。その不確実性の手前にある確実な努力もまた必要不可欠であり魅力的な要素である。
開幕2戦目で初勝利を飾った井上ドラゴンズ、勝利の立役者は先発して7回無失点に抑えた松葉貴大だった。チーム初勝利を自分がプレゼントできるとは思っていなかったという松葉投手、なぜ開幕2戦目に抜擢されたのか、なぜハマスタのベイスターズ打線を無失点に抑えられたのか、初勝利の裏側に迫っていく。
今年2月の沖縄キャンプでは、今年の目標について大きな声で高らかにこう宣言した。

「高橋宏斗(※「高」は「はしごだか」)?金丸夢斗?大野雄大?ちがうちがう…今年はオレだ!」
昨シーズンは、5回まででマウンドを降りることが定着していたことから「完封しま〜す!」という軽い口調で目標を宣言し、鮮やかに有言実行をした松葉投手。今年の宣言についてはこう語る。
「インタビューで「CBCです」って言われてすぐに(この宣言を)考えました(笑)。僕も年齢的に引退が近付いて来ていますし、チームの他の選手に負けたくない気持ちを僕なりに言葉として表現した。」
しかし、アピールの機会としてのオープン戦は悪天候が重なり中止が続き、登板機会がやってきたのは開幕6日前の3月22日だった。
「天気に関しては仕方ないなと思いましたし、その時間を有効に使って実際ゲームで投げるときに、さらに自信持って投げられる様にと思いながら過ごしていた。」
結果は5回を93球、被安打4、失点1と結果を残し、開幕二戦目の先発登板を告げられた。

「自分としてもそういう所を任せてもらえる可能性もあると思っていた。心の準備はできていたので、特別焦ったりとかはなかった。」
状況への対応能力も長年の経験が強みになっている。「速いボールが投げられる」「三振がとれる」もちろん確実に勝ち星を手にするために必要な強い武器ではある。ただそれだけでは決まらないのがこのスポーツの面白いところだ。開幕二戦目の抜擢について山井大介コーチはこう説明した。

「同じ様なピッチャーが揃うと相手バッターも目が慣れるということもあると思うので、松葉の投球は高橋宏斗の後に効くかなと。」
開幕戦で登板した高橋宏斗投手は最速158キロの直球とスプリットが軸の右の本格派であるのに対し、松葉投手は多彩な変化球で打たせて取るスタイルの左の技巧派と、対照的な二人を並べることで打者の対応を困難にする策に出た。
「ストレートで言えば球速差20キロ以上あると思うので、タイプも本当に違うので、それは(高橋)宏斗がいてくれるからこそ。」

松葉投手の通算防御率は3.67、高橋宏斗投手の登板翌日の成績は防御率1.87(8試合)と好成績を残している。これについて解説者の吉見一起氏は、左右の違いが大きく、本格派か技巧派という違いもあるが、松葉投手の投球術や試合を作れる力が大きいと評価する。
この日松葉投手をリードした木下拓哉捕手は、こう振り返った。
「1戦目(高橋)宏斗でやられていたので、逆に臆せずどんどんインコースを使っていこうと。各バッターのインコースを松葉さんが投げ切れたことが一番。」
結果は7回を94球、被安打2、無失点と完封も期待できるような素晴らしいピッチングだった。
「1−0だったんで、松山(晋也)をずっとベンチからドキドキしながら見ていましたね。自分の勝ちももちろん嬉しかったですけど、チーム初勝利っていうところがいつも以上に達成感や嬉しさはあった。」
試合後にウイニングボールを手にした井上一樹監督にかけられた言葉から、シーズン前を振り返った。

「監督からも『ありがとう、松葉はやってくれると思っていたよ』と言っていただいた。キャンプが始まる前から監督には、『お前が思っている以上にオレはお前のことを信頼している』と言っていただいていたので、だからこそ一発目にその期待に応えたいと思っていたのでそれが最高の形になったと思います。」

首脳陣の采配と、松葉投手のピッチング、そしてそれを引き出した井上監督の言葉全てが綺麗に繋がった初勝利だった。覚悟を持って挑んだ高橋宏斗投手は勝ち星という結果には繋がらなかったが、力強い速球の積み重ねがあったからこそ、松葉投手の技巧的な投球とのコントラストも引き立っただろう。そういった外的要因も自分の投球に活かして、井上監督に信頼を置かれる実績を持ち、引退という言葉も遠くはないという覚悟を決めて挑む松葉投手に、今年はさらに目が離せない!頑張れ松葉投手!
澤村桃