松中さん頼むよ!井上ドラゴンズ秋季キャンプで動き始めた新コーチ陣への期待
どうしても期待してしまう。3年連続の最下位という球団ワースト記録からの逆襲を狙う新生・井上ドラゴンズには、7人の新コーチが加わった。何といっても注目は、初めての指導者として打撃部門を担当する“平成の三冠王”松中信彦コーチである。(敬称略)
漫画『ドカベン』に登場させたい
松中信彦という野球選手について、筆者の個人的なイメージなのだが、その現役時代から水島新司さんの人気野球漫画『ドカベン』を思い浮かべていた。主人公の山田太郎ではなく、その明訓高校の相手、宿敵だった土佐丸高校や、明訓高校を破った弁慶高校にいそうでピッタリな打者、すなわち野武士的なスラッガーだったのだ。
1996年(平成8年)ドラフトで、当時の福岡ダイエーホークス(現・ソフトバンク)に逆指名の2位で入団。この時の1位は千葉ロッテマリーンズで監督も務めた井口忠仁(現・資仁)さんだったが、3年目から一気に花開いた。8年目の2004年(平成16年)に三冠王になった姿は、名古屋の地から見ていて、とにかくたくましい打者という印象だった。ドラゴンズファンとしては、1960年代の4番打者だった江藤慎一さんを思い出していた。
松中コーチへの大いなる期待
その松中さんが、打撃コーチとしてドラゴンズに入団した。井上一樹新監督の人脈で、松中さんは熊本県、井上監督は鹿児島県、九州つながりという。3年連続の最下位に終わった2024年シーズン、実は竜打線は“よく打った”。事実、チーム打率はリーグ3位であり、ホームラン数も4位、前のシーズンはいずれも最下位だったことから比べれば、格段の進化であった。しかし“点が入らなかった”のである。
チーム総得点は373点、前の年よりも合わせて17点減った。もちろんリーグで最少、順位と同じ3年連続の最下位だった。「あと1本が出ない」という言葉を、何度も聞き、何度も口にした。松中コーチは、かつて3年連続で120打点以上を記録した経験がある。秋季キャンプでは、早速、石川昂弥選手への指導からスタートしたが、どうか『ドカベン』に登場したようなスラッガーを、どんどん輩出してほしい。
東北から帰る小山コーチ
21年ぶりにドラゴンズのユニホームを着るのは小山伸一郎コーチである。三重県の野球名門高校である県立明野高校から、松中コーチと同じ1996年ドラフトの1位指名で、ドラゴンズに入団した。2期目としてチームを率いた星野仙一監督が最初に迎えたルーキーだった。背番号は「33」、郭源治さんが付けていた背番号を与えられる期待の高さだった。
ウエスタンで抑え投手に活路を見出しタイトルも獲得したが、1軍での目立った活躍はなかった。その後は誕生したばかりの東北楽天ゴールデンイーグルスで投手として、そしてコーチとして活躍した。「投手王国」と言われてきながらも、実は“砂上の楼閣”であることが判明した竜投手陣に、東北の地で培った指導力を発揮してほしい。
小林コーチは広報から転身
スーツからユニホームへ、小林正人コーチの誕生には驚いた。しかし、その手があったかと、井上新監督の慧眼にも感心した。現役時代の小林投手は、落合博満監督時代の“左キラー”であり、現在の讀賣ジャイアンツ監督の阿部慎之助選手をはじめ、リーグの左打者に対するワンポイント登板は、めざましい数だった。そして、打たれた印象がほとんどない。落合監督が愛でた“一芸に秀でた”選手だった。
現役引退後は、フロント入りして、この3年間は立浪和義監督の監督付広報を務めた。その真面目で誠実な対応に、取材で助けられたこともある。朝日新聞紙上に、小林広報自らの連載記事も掲載されたが、とても分かりやすく的確な内容だった。今後は育成コーチを担当するが、きっと選手たちへの指導も的を射たものになると期待が高まる。
悔し涙を嬉し涙に
最も大きなサプライズは、落合英二さんの2軍監督就任である。立浪政権をコーチとして支え、立浪監督と共に退団したのだが、井上監督自らが“口説いた”という。ドラゴンズファンの間では、“落合英二2軍監督”は「ドラフトで金丸投手のクジを引き当てたと同じような、大金星」という評価も多い。
かつて、韓国プロ野球でも2軍監督を務めた落合さん。井上監督の2歳年上ということもいい。チームには、監督に対して、きちんと進言できる“年配者”が必要な場合がある。井上監督自らが、それを理解しての落合2軍監督なのだろう。このタッグからは目が離せない。落合さんが、本拠地最終戦で魅せた悔し涙をファンは忘れない。是非、今度は嬉し涙を見せてほしい。
この他、新たに飯山裕志、平田良介、田島慎二、そして小池正晃という4人のコーチが加わることになった。グラウンドでプレーするのは選手だが、そんな選手たちへのリスペクトを忘れずに、いかに気持ちよく、いかに力強くアシストできるか、秋季キャンプでの熱い初指導が続いている。
【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。CBCラジオ『ドラ魂キング』『#プラス!』出演中。