井上一樹新監督のガッツポーズに“竜の明日”を見た!ドラフト大成功2つの成果
時間が経てば、少しは興奮も落ち着くかと思ったが、まだまだ余韻は続いている。井上一樹新監督を迎えた中日ドラゴンズは、ドラフト会議で獲得をめざした関西大学の左腕・金丸夢斗投手の交渉権を抽選で引き当てたことをスタートに、近来まれにみる成果を得た。そう言い切る理由は2つある。(敬称略)
侍ジャパンで観た快投
その投球を見た時の感動を忘れない。2024年3月、侍ジャパンと欧州代表との試合だった。大学生ながら、井端弘和監督によって日本代表チームに招集された金丸投手は、第2戦に先発を任された。そして2イニングを4奪三振でパーフェクトに抑えた。
マウンドでの立ち姿、投球への所作、球のスピード、変化球のキレ、そしてコントロール。どれを取っても素晴らしい。大学野球ではもちろん、アマ球界でも、そしてプロ野球選手が中心の代表チームでも一級品。こんな投手がドラゴンズに入ってくれたらいいな、と漠然と夢を描いた春の宵だった。
待望の即戦力左腕の獲得
ドラゴンズの先発左腕では、現時点3人の名前が挙がる。大野雄大、松葉貴大、そして小笠原慎之介である。しかし、大野は肘の手術もあった上、来季は37歳を迎える。松葉も安定した投球を見せながらも35歳になる。2人ともベテランである。
小笠原は、かねてから希望していた米メジャー移籍をめざす。どうしても左投手、それも即戦力の左腕がほしかった。そこに、今回のドラフト屈指の好投手である金丸投手を指名できたのである。チーム編成において、最も重要視していたピースが獲得できたこと、これが大成功ドラフト、最初の成果である。
渾身のガッツポーズ
あのガッツポーズはすごかった。金丸指名の“当たりくじ”を引き当てた時の井上監督である。何度その映像を見たことだろうか。監督本人も左肩を押さえて「脱臼しました」と苦笑いしていたが、かつてこれほどまでに喜びを身体いっぱいで爆発させた監督はいなかったと記憶する。
近藤真一(現・真市)を引き当てた星野仙一監督、根尾昂を引き当てた与田剛監督、それぞれガッツポーズは披露したものの、井上監督は“別格”だった。ドラゴンズファンは一緒に喜び、それ以外の多くの人たちも、あのシーンを目撃したことだろう。テレビでも何度も何度も紹介された。それでいい。最高のパフォーマンスだった。大成功ドラフトもうひとつの成果は、チームに勢いを与えて、同時にチームの存在感を天下に見せたこと。それを見せつけたガッツポーズだった。
巨人にも阪神にもDeNAにも勝った!
今回の抽選に勝ったことの意義は、4球団による競合だったことはもちろんだが、他の3チームが、同じセ・リーグだったことが大きい。リーグ覇者の讀賣ジャイアンツ、1年前の日本一チームの阪神タイガース、そして、巨人を破って日本シリーズに出場した横浜DeNAベイスターズ、いずれも監督が抽選の場に立ち、その中で井上監督が“勝った”のである。
とても気が早いのだが、ついついそれを来季の前哨戦と位置づけてしまう。今回の金丸投手の指名権獲得が竜にもたらした2つ、「戦力補強の成功」と「チームの勢いと存在感アピール」まさに、意義のあるドラフトだった。
金丸指名で来た流れ
ドラフト指名に正々堂々と真正面から勝負をするチームに、これまでも“野球の神様”は微笑んできた。ドラゴンズが、最もほしかった金丸投手を1位指名して抽選に立ち向かい、見事に指名権を得たことで、続く2位以下の指名も、実にうまく進んだと思う。
2位指名の西濃運輸・吉田聖弥投手は、金丸投手と同じ左腕であり、外れ1位の候補にも挙がっていた好投手である。さらに驚いたのは、社会人ではナンバーワン捕手と言われる日本生命の石伊雄太捕手を4位で指名できたことだ。即戦力投手に続き、「キャッチャー」の獲得は、このドラフトの課題だっただけに、2つどころではない、大きな成果が増えた。
指名の全8選手がリスト入り
今回ドラゴンズは、6人の選手を指名した。さらに育成ドラフトで2人を指名した。雑誌『週刊ベースボール』は、毎年ドラフト直前に特集を組み、「ドラフト候補100選手」をカラー写真と共に紹介する。ドラゴンズが指名した8選手は、すべてこのリストの中で紹介されているのである。それほどの逸材揃いの指名成功、かつてなかったほどである。
これも、すべては「金丸投手指名」によって“扉”が開いたためだと信じたい。井上新監督とスカウト陣のコミュニケーションもうまくいったのであろう。こんな嬉しいドラフトならば、井上監督に何回脱臼してもらってもいいとすら思った。
井上監督は交渉権を獲得した直後のインタビューで、金丸投手の名前「夢斗」について触れて「一緒に夢をかなえましょう」と呼びかけ、「迎えに行きます!以上!」と力強くメッセージを送った。この言葉は間違いなく金丸投手の心に届いたはず。新監督としての魅力を発揮できたことも、今回のドラフトの追加の成果だった。
【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。CBCラジオ『ドラ魂キング』『#プラス!』出演中。