ナイチンゲールの助けは不要?ドラゴンズ「野戦病院」から脱出への道
「野戦病院」という言葉は『広辞苑(第7版)』(岩波書店)で「戦場の後方に設け、戦線の傷病兵を収容・治療する病院」と説明されているが、時としてスポーツの団体競技においてもけが人が多いチームについて使用される。
しかし、まさか2019年の中日ドラゴンズに対してこの言葉が使われようとは思ってもいなかった。まして球団史上ワーストの6年連続Bクラスから脱出しようという大切なシーズンである。
与田新監督の試練が続く
ドラゴンズの支配下選手は68人である。このメンバーから1軍登録メンバーを選んでシーズンを戦う。1軍枠は今季からひとつ増えて、29人となった。「29」は与田剛監督のドラゴンズ現役時代の背番号である。この数字の一致だけでも、ドラゴンズファンとしては何やら吉兆ではないかと喜んでシーズンを迎えたのだが・・・。
開幕から2か月余り、与田監督はかつての背番号と同じ数の1軍メンバーを選ぶことに苦労する事態に直面し続けている。とにかく、けが人が多すぎる。
松坂に平田に故障者が続出
シーズン初めから肩や肘なども傷めていた松坂大輔、小笠原慎之介、藤嶋健人、そして石川翔ら本来ならば1軍での活躍が期待されていた各投手。そこに開幕投手をつとめた期待の左腕・笠原祥太郎投手が不整脈によって加わり手術を受けた。登板219試合目にしてプロ初先発を果たし好投した7年目の福谷浩司投手も腰の椎間板ヘルニアで離脱した。いずれの投手も1軍復帰の具体的なメドは立っていない。
野手では何といっても平田良介外野手、左ふくらはぎ肉離れで1軍登録を抹消されて現在なお調整中である。ポイントゲッターさらに堅い守りの中心選手だけに影響は大きい。
その穴を埋めるべく登場した19歳の伊藤康祐外野手は若さあふれるプレーでチームに活力を与えたが、その後に右大腿を痛めてリタイアした。ざっと計算して投手と野手合わせて16人ほどが、いわゆる“故障者”として名を連ねた。
なぜドラゴンズばかり?
この中から右手首を痛めた福田永将選手と右足関節を痛めた松井雅人捕手は、セ・パ交流戦の途中から1軍に復帰したが、ファンの目から見ても明らかに戦力全体の数は足りない。そして12球団の故障者数を見ても、ドラゴンズは圧倒的に多い。
主砲・柳田悠岐選手と守護神であるデニス・サファテ投手をけがで欠く福岡ソフトバンクホークスは3軍制を取っているため、厚い選手層によってシーズンを戦っているが、ドラゴンズはそうはいかない。
「起きてしまったことは仕方なし、目の前にある戦力で戦うのみ」と与田監督は気丈に話すが、オーダーを組むことも大変であろうと思いやってしまう。
けが人急増の理由は何?
それにしてもなぜ?
このけが人の数の多さは「不運」というひと言では片づけられない。いや片づけてはいけない。なぜならば戦ってこそのプロ集団なのだから。
まだシーズン前半戦での痛い現状・・・春季キャンプのあり方、準備態勢、チェック態勢、申告態勢、ケア態勢、治療態勢など、球団は当然すべてをチェックしていると思うが、この際、徹底的な追究と将来への改善対策を切に望みたい。
舞台には役者が必要である。野球場にはプレーヤーが必要である。それを観るため、声援を送るため、私たちは入場料を払って球場に足を運ぶ。グラウンドというステージに上がる顔ぶれをファンは常に見つめ、そして楽しみにしている。役者もプレーヤーも“顔”が揃わなければカクテルライトも色褪せよう。
力強い竜の再生を待つ!
「野戦病院」という言葉を聞くと、一人の女性を思い出す。フローレンス・ナイチンゲール。19世紀半ばのクリミア戦争で従軍して野戦病院で負傷兵の治療に当たった看護師である。
名古屋市営地下鉄「ナゴヤドーム前矢田」駅からナゴヤドームに向かう通路には、ドラゴンズ全選手の大きな顔写真パネルが掲示されてファンを出迎えている。けがをした選手の笑顔を見る度に「クリミアの天使」と呼ばれたナイチンゲールに祈りたくなるような竜党の心理だが、同時に5年目の井領雅貴選手のようにけが人の代わりに起用された選手たちの予想以上の頑張りは嬉しい。
プロ集団であるドラゴンズには“ナイチンゲール”に頼ることなく、たくましく力強く自力で立ち上がってほしい。
【CBCテレビ論説室長・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。