決着を抽選に。「ノーサイドの精神」に宿る高校ラグビーの信念
「冬の花園」を目指す「全国高等学校ラグビーフットボール大会」の地区予選が全国各地で行なわれています。高校ラグビーは延長戦を行ないません。同点で試合が終了した場合は、その勝敗を「抽選」にゆだねることになります。11月14日放送の『ドラ魂キング』(CBCラジオ)では、宮部和裕アナウンサーがこの根幹にある「ノーサイドの精神」について解説しました。
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この記事をradiko(ラジコ)で聴くくじ引きは納得できない!
高校3年生のプレイヤーにとって最後の大会。負ければ高校ラグビーからの卒業、決勝で勝てば憧れの花園ラグビー場の芝を踏むことができます。
リスナーAさんから宮部宛にこんな投稿が寄せられました。
「時折高校ラグビーで見かけることですが、トライ数、ペナルティーゴール数も同じで同点の場合、くじ引きで勝利校を決める方法ですが、すっきりしないもやっとした終わり方だと思います。
くじを引くキャプテンの気持ちを思うと、サッカーPK戦のように何か納得する決め方はないのかなと思ってしまいます」(Aさん)
先日行なわれた三重県大会、朝明高校と四日市工業との決勝戦でも、まさにこのシチュエーションが起こりました。
敵味方、勝敗を超える瞬間
最終スコアは26-26で両校優勝。規定による抽選で、朝明高校が全国大会の出場権を獲得しました。
「ただ、ある意味その方が残酷なんです」と話す宮部に、「本当ですよね」と安藤渚七。安藤は延長戦で決着をつけないことに納得ができないようです。
安藤「諦めがつく、それの方が。くじ引きって運じゃん!」
宮部「どっちか決まるまでやれ!でしょ」
安藤「ちょっと嫌だなーこれ」
これは、ラグビーの「ノーサイドの精神」によるもの。
試合終了時に審判が吹く長いホイッスル「ノーサイドの笛」によって、敵も味方も、勝者も敗者も関係なく、みな仲間となります。
かつては試合後に一緒にお風呂に入って、お互いの健闘を称え合っていたそうです。
忘れられない一戦
ワールドカップでは、勝利国を決めるために延長戦やキッキングコンペティションが行なわれますが、高校ラグビーの場合はこの「ラグビー精神」にのっとって、30分ハーフでノーサイド。
勝敗を超えた「全員仲間」の精神が息づいているからこその抽選というわけです。
また「過酷なスポーツ」であることも理由のひとつ。30分ハーフで全力を出し切るため、延長戦を戦う余力は残されていません。
宮部には忘れられない一戦があります。
数年前の愛知県大会の準決勝で、同点のままノーサイド後、両チームのキャプテンが部屋に呼ばれ抽選が行なわれましたが、「結果はそれぞれチームに持ち帰って報告する」となり、片方は静かに喜び、片方は静かに受け入れるという場面があったそうです。
宮部「という瞬間がありまして。今回の三重大会もそうだったんでしょうね」
花園まであと一歩、挑む名古屋高校
先日行なわれた岐阜大会は接戦となり、関商工が24-22で岐阜工をわずか2点差の再逆転で下し花園行きを決めました。
愛知県大会の決勝戦は、11月16日(土)14時から春日井市の朝宮公園スポーレかすがいで開催されます。中部大学春日丘高校と名古屋高校の対戦です。
中部大春日丘は2000年の100回記念大会で全国ベスト8に進出した強豪校で、11年連続で花園に出場し続けています。
一方、名古屋高校が県決勝の舞台に進むのは5年連続。メンバーが変わる中、5年続けて決勝の舞台まで上り詰めました。
9回目の決勝で「あとひとつで花園」のチャレンジをします。この顔合わせは4年連続です。
王者 vs 挑戦者、運命の一戦!
宮部が注目しているのは、名古屋高校の13番 センターバックの西田勝多選手。
西田選手の父親は中国に単身赴任中のため、普段は息子の活躍を見る機会がありません。
しかし今年、父の故郷・佐賀で開催された国体に西田選手は「オール愛知」として出場し、父は一時帰国して息子のジャージ姿を見届けたそうです。
花園での全国大会は年末年始に開催されるため、出場が決まれば父が帰国して観戦する可能性もあります。
宮部「王者・中部大春日丘にも歴史があります。チャレンジャー・名古屋高校にもそんな思いがみんなにあります。さあぶつかり合い、どうなるか!」
勝てば花園、負ければ高校ラグビー引退。注目の一戦です。
(minto)