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新横綱・豊昇龍に期待したい「気魄一閃(きはくいっせん)」の土俵

新横綱・豊昇龍に期待したい「気魄一閃(きはくいっせん)」の土俵
CBCテレビ:画像『写真AC』より「相撲のぼり両国国技館前(2025年初場所)」

その言葉は、大関昇進の時と同じだった。2025年(令和7年)の大相撲初場所で優勝し、横綱昇進を決めた豊昇龍への伝達式。使者を迎えた新横綱の口からは「気魄一閃(きはくいっせん)」という四字熟語が登場した。「愚直に、真っすぐに、力強く立ち向かっていく精神力」という意味。まさに、今の豊昇龍の気持ちを表した言葉だろう。(敬称略)

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新横綱「豊昇龍」の歩み

第74代の横綱に決まった豊昇龍は、モンゴルのウランバートル市出身、1999年5月生まれの25歳。かつて幕内で25回優勝した横綱・朝青龍の甥にあたる。レスリング留学で来日したが、高校時代に相撲に転向した。高校3年生の時には、高校総体で準優勝。2018年(平成30年)の初場所で初土俵、2020年(令和2年)の秋場所で新入幕を果たした。2023年(令和5年)の名古屋場所で初優勝して、場所後に大関に昇進した。師匠である立浪親方の現役時代のしこ名「旭豊(あさひゆたか)」の「豊」と、叔父である「朝青龍」の「しょうりゅう」の漢字を変えて「豊昇龍(ほうしょうりゅう)」を名乗った。

後半戦での大逆転

2025年1月26日に千秋楽を迎えた初場所の成績は12勝3敗で優勝、前の九州場所が13勝2敗で準優勝。横綱審議委員会の横綱推薦内規は「大関で2場所連続の優勝、または、それに準ずる成績」とされている。それには見合う成績だった。しかし、綱取り場所と注目された初場所は、9日目までに3敗を喫した。同じく綱取りをめざした大関・琴櫻も序盤戦から負けを重ねて、この場所での「横綱誕生は絶望」という空気だった。しかし、10日目から“一度は死んだはず”の豊昇龍の「気魄一閃」が始まった。本割は6連勝、優勝決定戦の巴戦を加えると8連勝で場所を締めくくった。

過去の昇進成績に及ばず

横綱推薦の内規は満たしたものの、3場所前の秋場所は8勝7敗と勝ち越しぎりぎりだった。直前3場所の勝ち星の合計は33勝。過去の横綱昇進をみてみると、叔父にあたる朝青龍は合計38勝だった。白鵬、日馬富士、そして今場所で引退した照ノ富士も、同じく38勝、最近では最も少なかった稀勢の里でも36勝だった。この中で日馬富士は、3場所前は豊昇龍と同じ8勝7敗だったが、その後は2場所連続の全勝優勝、圧倒的な強さを見せて、横綱に昇進した。そう考えると、豊昇龍の33勝は物足らないと言わざるを得ない。

「横綱」が消えるピンチ

CBCテレビ:画像『写真AC』より「相撲の稽古をする力士」

今回の横綱昇進へ“追い風”もあった。ここまで一人横綱だった照ノ富士が引退した。このまま横綱が不在だと、来場所の番付から「横綱」が消える。この照ノ富士、さらに少し前の白鵬や稀勢の里も休場が多かったので、ファンも「横綱がいない場所」にも慣れてしまう印象だったが、実は番付には「横綱」が存在していた。1993年(平成5年)の初場所で曙が横綱に昇進して以来、32年ぶりに番付から「横綱」が消えるピンチだった。さらに、2025年は日本相撲協会が財団法人になって100年という節目でもあり、10月には20年ぶりの海外公演となるロンドン公演、来年6月にはパリ公演が予定されていて、目玉である「横綱土俵入り」が披露できない可能性もあった。角界は“新横綱”を欲していた。

千秋楽まさに「気魄一閃」

そんな背景もあったものの、昇進の決め手となったのは、豊昇龍自身の「気魄一閃」であった。そのスピード感あふれる相撲は、日に日に力強さを増していった。千秋楽、結びの一番で琴櫻を破った一番、そして、巴戦の二番、一日で一気に3勝を挙げた印象は強烈だった。横綱審議委員会が全会一致での推挙だったのも、その力強い相撲を見たゆえの結論だったのであろう。“追い風”をしっかりと自分のものとして勝ち取った“横綱の座”である。モンゴル出身力士としては6人目の横綱となった。

新横綱・豊昇龍の土俵入りは「雲竜型」と決まった。自らの力を過信せず、油断せず、そして、おごらず、謙虚な姿勢で稽古にまい進する、そんな力強い“横綱道”を歩んでほしい。それこそが「気魄一閃」の道である。
       

【東西南北論説風(554)  by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】

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