高校野球「7イニング制」検討スタート!変わりゆく時代と環境から球児を守るには?
誕生100周年を迎えた阪神甲子園球場で、高校球児たちの戦いも大詰めを迎えている。“熱い”ゲームなのだが、それを取り巻く空気は、漢字が違う“暑い”である。年々夏の暑さが厳しくなる中、選手たちの健康を守るため、試合自体を短くする「7イニング制」導入への検討が始まった。
7イニング制の検討始まる
2024年夏の全国高等学校野球選手権大会を前に、日本高校野球連盟(高野連)は、公式戦を7イニングまでとするルールを導入するかどうか、検討を始めたことを明らかにした。現在より2イニング短い「7イニング制」について、今後、メリットとデメリットの両方を出し合って、分析していくという。そのために高野連関係者や大学教授ら有識者によるワーキンググループを組織し、すでに複数回、会合も開いたそうだ。
理由は「球児の健康を守る」
「7イニング制」検討の理由は、高校球児たちの健康を守るためである。夏の厳しい暑さや少子化による部員数の減少など、高校野球を取り巻く環境の変化は昨今著しい。これまでも様々な対策が行われてきた。2018年には、延長13回からは無死1、2塁からイニングを始めて、ゲームを促進する「タイブレーク制」を導入した。現在は延長戦の10回に入ると同時に採用されている。
水分補給タイムも導入
2019年(令和元年)の夏の大会からは、準決勝と決勝の間に「休養日」を設けた。翌2020年の春の大会からは、投手が1週間に投げられる球数を500球以内と制限した。肩を痛めないための配慮である。2023年の夏からは、5回が終了した後に休憩を取って水分補給する「クーリングタイム」も導入した。
午後はゲームを中断
開催中の第106回大会では、画期的な改革が始まった。暑さがピークを迎える午後の時間帯は試合を行わずに、「午前の部」と「夕方の部」の2部制を、試験的に導入した。試合をする選手たちだけでなく、アルプススタンドの応援団や観客も、いったん球場の外へ退出することになる。開会式当日は、午前8時に繰り上げて行われた式の後、第1試合が行われたが、続く第2試合のプレーボールは夕方の午後4時になった。さらに第3試合が始まったのは午後7時前、ナイターでの対戦となった。試合が終わったのは午後9時半を過ぎていた。
海外は?他の競技は?
海外の高校野球では、米国、カナダ、韓国、そして台湾などが、すでに「7イニング制」を導入している。また、野球以外のスポーツでも、サッカーは、Jリーグや国際試合は45分ハーフだが、高校全国大会は準々決勝まで40分ハーフで行われる。夏に開催される全国高校総体では、さらに短い35分ハーフ。ラグビーもリーグワンなどの試合は40分ハーフだが、高校の全国大会は10分短い30分ハーフで行われている。“選手が高校生”という状況を考えての配慮である。
戦い方も変わっていく
長い歴史の中、「9イニング制」で戦ってきた高校野球。試合が2イニング短くなるということは、戦い方にも大きな影響が出る。「7イニング制」の検討が始まったことについて、高校野球の現場でも、賛否両論が巻き起こっている。そこに共通するのは、戸惑いである。先取点を取った方が有利なのか、選手交代のタイミングはどうするか、勝負をかけるイニングをどこにおくか、様々な課題が生まれる。また、過去の大会記録との比較も、これからは単純には比べにくくなるだろう。条件が違ってくるからである。
年内には方向性が出る?
高野連では、ワーキンググループをさらに開催して検討を進め、12月の理事会でその内容を報告するとしている。「球児たちの健康を守る」というメリットに比べ、「戸惑い」とか「戦い方の変化」とかデメリットとされそうなものは、多くが抽象的な面であることは否めない。おそらく「7イニング制」導入は、前へ進みそうな可能性が強い。
甲子園球場も、今後、内野席を覆う屋根(銀傘)を、応援団が陣取るアルプス席の7割まで覆うようにする。これも猛暑などへの対策である。ここ数年の地球環境の著しい変化は、そんなハード面や、さらに長い歴史のルールまで変更せざるを得ない時代の波を運んできている。
【東西南北論説風(515) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】