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「スパイ手帳」を覚えていますか?昭和の時代に胸ときめかせた“秘密の文具”

「スパイ手帳」を覚えていますか?昭和の時代に胸ときめかせた“秘密の文具”

小学生時代に夢中になった遊びに「秘密基地ごっこ」がある。家の中とか近所の公園とか、小さなスペースだが、段ボールや大きな布地で囲って、それを「基地」と称していた。『ウルトラセブン』のウルトラ警備隊とか、『サンダーバード』の地下基地とか、テレビの影響も大きかった。その“秘密”めいたところが、子供心をくすぐったのだろうか。そんな昭和40年代に、目の前に登場したのが「スパイ手帳」だった。衝撃だった。

教室の話題を独占した手帳

CBCテレビ:画像「スパイパックとスパイメモ①(筆者所有)」

正式な商品名は「スパイメモ」だった。「象がふんでもこわれない!」というキャッチコピーで人気だった「アーム筆入れ」を世に送り出していたサンスター文具株式会社が、1970年に発売した商品である。当時、小学5年生だった筆者は、クラスの友人から情報を得て、校門前にあった文房具店に買いに走ったのだった。「スパイメモ」そして1ランク上の少し豪華な「スパイパック」は、燦然と輝いていた。当時はテレビコマーシャルでも紹介されていた記憶がある。友人たちも次々と、このスパイ手帳を買って、教室では、連日この話題で持ちきりだった。

変装道具まであった!

実は、半世紀以上たった今でも、このスパイ手帳を大切に保有している。髑髏マークやピストルの絵が描かれた「スパイパック」の表紙には、スパイチームであることを示す紙製のバッジが添えられている。「パック」と言うだけに、中にはいろいろなアイテムが詰め込まれている。連絡用の笛は「スパイシグナルコール」と名づけられている。変装用のアイパッチもあれば、なんと、つけ髭やつけホクロなどのシールもある。シールで言えば、誰かを追跡する際に“目印”として貼る、足跡マークや矢印マークのものまで備えられている。

水に溶けるメモに大興奮

CBCテレビ:画像「スパイパックとスパイメモ②(筆者所有)」

中でも最も胸をときめかせたものは、水に溶ける紙だった。「コウモリ」のマークがあるメモ用紙のページは、何かをメモした後にそれを水の中に入れると溶ける用紙だった。「秘密を守る」という、何ともスパイめいた一品だった。さらに「スパイホルダー」と名づけられたペンは、普通に書いただけでは透明で、ペンの反対側にあるフェルトでこすると文字が浮かび上がるという、まるで理科の実験でやった“あぶり出し”のような、化学的な工夫が施されていた。

モールス信号の暗号表

メモ帳のページには、モールス信号の表もある。おそらく、人生で初めて「モールス信号」なるものに触れたのは、この「スパイメモ」だったはずだ。「1」から「0」まで、10個の数字を使って“秘密の文章”を作る暗号表もある。「スパイ指令1号全員集合」という例文が、数字の暗号によって書かれている。小学生にとっては、レベルの高い遊びでもあった。007のジェームズ・ボンドやナポレオン・ソロなど、スパイが活躍する映画が人気だった時代背景もあるが、スパイ手帳は、昭和のひと時代、一世を風靡した商品だった。

トム・クルーズ主演の映画『ミッション:インポッシブル』シリーズで、主人公のイーサン・ハントたちが、ハイテクを駆使して活躍する姿をスクリーンで観る度に、机の引き出しの奥にしまってある、少し色あせたスパイ手帳を取り出してみたくなる。いつまでもワクワクする大切な、わが“記憶遺産”である。
          
【東西南北論説風(494)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※『北辻利寿のニッポン記憶遺産』
昭和、平成、令和と時代が移りゆく中で、姿を消したもの、数が少なくなったもの、形を変えたもの、でも、心に留めておきたいものを、独自の視点で「ニッポン記憶遺産」として紹介するコラムです。

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