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あなたは法廷で人を裁けますか?裁判員制度10年の光と影

あなたは法廷で人を裁けますか?裁判員制度10年の光と影
画像『写真AC』

人が人を裁くことの重みと難しさをあらためて考えさせられる節目になった。裁判員制度が始まって2019年5月でちょうど10年を迎えた。

裁判員制度とは?

この裁判員制度は「司法の場に市民感覚を反映させたい」という目的で、2009年に始まった。20歳以上の国民から選ばれた6人と裁判官3人、合わせて9人が、殺人、強盗致死傷、危険運転致死などいわゆる“重大犯罪”について審理して判決を下す。
これまでにおよそ9万人が裁判員を務めた。

評価の一方で課題もあり

最高裁がまとめた「裁判員制度10年の総括報告書」には、制度10年の歩みについて光と影が交錯している。
冒頭「国民の理解と協力の下、概ね順調に運営されてきたと評価されている」としながらも「不断に運営の在り方を検討」し「更なる運用改善に向けた検討作業」をしていくことを謳っている。実績を積み重ねると同時に課題も見つかる。「人が人を裁く重みと難しさ」という観点から、報告書を読み進めた。

市民の思いが反映され始めた

この制度の肝とも言える「市民感覚の反映」については、強姦致死傷や強制わいせつ致傷など卑劣な性犯罪の刑期が、より重い方にシフトしていることが印象深い。
一方で、今回の報告書で数は明らかになっていないが、老々介護の末の殺人など情状酌量が組み込まれるような事案に執行猶予が付くケースが増えている。
報告書では「裁判官裁判の時代に比べると、軽重の双方向で量刑判断の幅が広くなっている」と分析、「国民の多様な視点・感覚が量刑に反映された結果」と評価している。

変貌した法廷と捜査の可視化

法廷のあり方も大きく変わった。
実際に裁判員裁判を傍聴したが、かつての裁判官裁判時代との大きな違いに驚く。法廷には大きなモニターも設置されて事件現場の写真や図などが映し出される。検事や弁護士は身ぶり手ぶりを交えて、裁判員たちに語りかける。まさにプレゼンテーションだ。
「調書」を重視した審理から、裁判員の前での「公判」重視の審理に変わったのだ。
制度導入のきっかけにもなった数々の冤罪事件、その反省に基づき、取り調べ状況の録音録画が進むようになった。
警察庁がこのほど発表した取り調べでの録音録画の実施状況によると裁判員裁判対象事件では87.6%と前年から6%近く増加した。6月1日からはすべての過程で録音録画を義務づける改正刑事訴訟法も施行される。「透明化」は進んでいる。

増加する裁判員の辞退

一方で課題も浮き彫りになった。
最も深刻なことは、裁判員を辞退する人が増え続けていることである。報告書によると、裁判員の辞退率は、制度がスタートした1年目の2009年は53.1%だったが、昨年2018年は67%だった。正当な理由がない辞退には課徴金があるというものの、3人に2人が裁判員を辞退する現状は、制度の主旨からも大きな問題であろう。

裁判員辞退の理由は?

辞退が増える理由としては、裁判員の負担が挙げられる。
まず「時間がとられる」。審理にかかる予定日数は、10年間で平均3.4日から6.4日に1.8倍増加した。開廷時間と評議時間の合計時間や取り調べ証人の数も大きく増えた。
「納得いくまで十分に審理して議論したい」裁判員の真面目な姿勢の表れだと報告書は分析するが、とにかく自分の時間は拘束される。
精神的な負担も辞退が増える理由であろう。法廷で人を裁くというのは決して日常的なことではない。非日常体験である。事案によっては被告に死刑を言い渡すことがある。
裁判員を務めて急性ストレス障害になったと国家賠償訴訟が起きたケースもあった。
「裁判員メンタルヘルスサポート窓口」も設置されている。10年間での利用件数は410件。そんな思いをしてまで裁判員をやりたくないという声が出ることも現実なのだ。

「裁判員は良い経験だった」が9割以上

増え続ける辞退率については、裁判官・検事・弁護士による「法曹三者」が改善策を継続的に検討する中での重要なテーマとなっている。審理の迅速化も必要だ。
そんな中、今回の10年報告書には、裁判員を経験した人の感想も紹介されている。
2018年では、「非常に良い経験」63.8%、「良い経験」32.9%、合わせて96.7%の裁判員経験者がその仕事を肯定的に受け止めている。司法に参加することによって得たものが多いと言う。この高い数字は制度が始まって10年間変わっていない。
「裁判員を務めて良かった」こうした経験談を法曹界から積極的に発信していく努力も必要であろう。

裁判員制度は、私たちの市民目線や市民感覚を「法廷の場」で活かすことができる大切な制度である。裁判員候補になったという通知が、明日、私たちそれぞれの手元に届く可能性は十分にある。制度スタート10年という今回のような節目などの機会に、日本の司法のあり方を我が事として考える機会にしたい。

【東西南北論説風(103)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

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