地震大国ニッポンどこまで続く闇~免震不正に揺らぐ安全神話
北海道の胆振地方を中心とした震度7の地震、その被害余波が今なお続く中、耳を疑う信じられないニュースが飛び込んできた。大手の油圧機器メーカーによる免震・耐震装置の検査データ改ざんである。
免震・耐震を揺るがした不正
油圧機器大手メーカーと子会社が国土交通省の基準や顧客の性能基準に合わない装置があったことを認めた。これまでのところ全国で1000件にのぼるという。データを書き換えられた装置は「免震ダンパー」と「制振ダンパー」である。
「免震ダンパー」は建物の基礎部分に置かれて地震による揺れが建物そのものに伝わりにくくする、言わば地震の力を吸収する役割を持つ。また「制振ダンパー」は建物の内部に取り付けることで、これも揺れを吸収する。いずれも地震から建物、すなわち人の安全そして命を守るための大切なシステムである。
データが改ざんされたダンパーが使われたのは、さまざまな用途の建物に及ぶ。
東京都庁をはじめ愛知県庁や名古屋市役所など公共施設、東京スカイツリーや名古屋市科学館などの観光施設、病院施設も。そして驚いたのは、名古屋大学が防災研究の拠点として設けた「減災館」や名古屋に本社のある東邦ガスの防災拠点ビルにも使用されていたことだ。改ざんは2003年頃から少なくとも15年にわたると見られる。
何処へ?メイド・イン・ジャパンの信頼
不正は1社だけに留まらなかった。国土交通省は免震装置の事業者に調査を指示したが、業界2位のメーカーでもグループ企業が製造販売した「免震ダンパー」と「制振ダンパー」で不正が見つかった。契約した性能基準を満たさず、検査データを改ざんして納品していた。当初の会社側の発表では納入先は全国で93件、こちらは2005年2月から13年以上にわたっていた。
1年前の2017年秋には、自動車を中心に製造業での不正が次々と発覚していたことを思い出す。戦後日本が積み上げた「メイド・イン・ジャパン」の信頼を揺るがす大きな社会問題にもなった。あれから1年、今度は、信頼はもちろんのこと、本来「揺らぐ」ものを防ぐ役割、それ自体が揺らぐという由々しき事態となった。
忘れてならない震災の教訓
深刻なのは、今回の製品が“地震大国”と言われる日本にとって「免震」「制振」という極めて重要なテーマであることと共に、不正が行われていた期間に、日本ではどんな出来事が起きていたかという点である。
最初のメーカーは2003年から、もうひとつのメーカーは2005年から、それぞれ発覚した今年までが改ざんの対象期間なのだが、関わった人たちは「2011年3月11日」に何があったのかをよもや忘れてはいまい。
その東日本大震災だけではない。2016年には熊本地震、そして先日の北海道での地震、さらに多くの地震が日本列島を揺るがせた。メーカーに対してはこうした数々の地震をどんな思いで見つめてきたのか尋ねてみたい。
2015年には別のメーカーで免震ゴムについての不正も発覚している。今回「建物に多少の影響は出ても人命に関わるレベルではない」と言うが、ことは日々の安心安全に直結する。いずれも納期を守ろうとしたためとの理由だが、それによって信頼が脅かされるのならば本末転倒である。
平成という時代がまもなく終わる。そして様々な事象に「平成最後の」という形容詞が付けられている。平成最後の10月に発覚した今回の免震不正、「平成最後」どころか金輪際最後にしていただきたい。