重い障害があっても、健常者と同等に働ける技術が次々と登場しています。寝たきりの状態でありながら会社を経営する社長、話すことが難しい聴覚障害者の発言を瞬時に文字化するAIアプリなど、障害の有無に関わらず、人の可能性を広げるテクノロジーを紹介します。

視線のみでパソコンを操作 膨大な資料も全て自作

使えるのは目と、わずかに動かせる左手の親指だけ。ベッドに横たわり仕事に打ち込む「寝たきり社長」佐藤仙務さん33歳。全身の筋肉が衰える難病「脊髄性筋萎縮症」と向き合い、14年前には障害者が働ける場を自分で作ろうと、ホームページや名刺を作る会社を設立。今はキッチンカーやフルーツサンドイッチ店など、様々な会社を経営しています。

（自称 「寝たきり社長」 佐藤仙務 社長）
「僕は"寝たきり"で一般の方が使うようなマウスやキーボードが使えないので、視線入力装置を使って、パソコンの操作は目で行っています」

視線のみでパソコンを操作できるこのシステム。センサーが眼の瞳孔の動きを捉え、見ている場所にカーソルを正確に動かし、文章や表が作られます。ミスタッチすることなく文字を正確に入力していき、「私の相棒はこの視線入力装置です」という文章を入力するのにかかった時間はわずか15秒でした。

去年、障害者のための福祉事業所も立ち上げましたが、その手続きに提出した膨大な資料も全て自分で作りました。

（自称 「寝たきり社長」 佐藤仙務 社長）
「全て視線入力で自分で作った。この装置のおかげで申請できたので、ありがたいですね。障害がある方がICT（情報技術）を活用すると、働けるチャンスが広がるというのを皆さんに知ってもらいたいと思っています」

7秒の発話を1秒で変換！AIが聴覚障害者の声を瞬時に文字化

障害がある人をサポートする技術は他にも。生まれつき聴覚に障害がある鈴木優人さん45歳。他人や自分の声が聞き取りづらいため、話すことが困難です。

鈴木さんが勤める名古屋のブラザー工業では、AIを活用した「聴覚障害者の発話を音声認識するアプリ」を開発しています。

（ブラザー工業 中田祐輔 チーム・マネージャー）
「聴覚障害者の発話を音声認識するアプリで、AIの技術を使って開発しています」

アプリの開発にも携わる鈴木さん。説明用のアニメーションを作り、プレゼンします。彼の7秒間の発言がわずか1秒で変換され、モニターに表示されます。さらに長い文章でも、1秒あまりで変換されました。

相手の発言もすぐさま文字に変換され、耳の不自由な鈴木さんも会議に参加できます。このアプリは聴覚障害者一人一人の音声データをAIに学習させ、文字に変換する仕組みです。

鈴木さんと同じ聴覚障害者である人事部の山本さんに同じ文章を読んでもらうと、発声やイントネーションも全く違う二人ですが、瞬時に正しく変換されます。このアプリは今年度中の商品化を目指し、さらなる精度とスピードアップなどアプリの改善を進めています。

（ブラザー工業 中田祐輔 チーム・マネージャー）
「手術とか神経系の病気で、うまく発話ができない方にも使えるかなと思っています」

重い障害があっても健常者と一緒に働けるよう、日々進化するテクノロジー。それは障害の有無に関わらず、人の可能性を広げることにつながります。

CBCテレビ「newsX」2025年4月28日放送より