一度も使われなかった鉄道トンネルの遺構 中止された計画の痕跡が残る国道168号の歴史とは

全国の道に特化したバラエティ番組『道との遭遇』では、道マニアがイチオシの道を紹介。今回は、奈良県にある未完成の道“未成道”から歴史を紐解きました。(この記事では道情報だけをまとめてご紹介します)
一度も使われなかった未成線の遺構

「奈良県五條市は、昔から交通の要衝」と道マニア。大阪をつなぐ「河内街道」や、三重へと続く「伊勢街道」など、5本の重要な街道が集まる要衝で、一説には「五條」の名の由来と言われています。
そんな五條市には、鉄道用に造られたアーチ橋の遺構が存在。昭和14年、人々や木材などを輸送するため、五条から和歌山県の新宮までを鉄道で結ぶ「五新線」の工事が着工されました。
しかし、急峻な山地を貫くトンネル工事の難航や莫大な建設費用により、昭和57年に計画は中止に。五新線は開通することなく、未成線となりました。かつては川の中に建てられた巨大な橋脚も、しばらくは遺構として残されていたそうです。

五新線の線路が敷かれるはずだった道は、鉄道開通までの間、バス専用道路として使われていた歴史も。
五新線の工事着工から20年後に、五条から城戸(じょうど)までの区間の路盤工事が完了。地元の人達からの強い要望で、鉄道が開通するまでの間、この区間をバス路線として活用することになりました。
鉄道工事が中止になってからもバス専用道路として使われていましたが、平成26年に利用者減少によりバスの運行も廃止となりました。
現在、終点「城戸」と「賀名生(あのう)」を結ぶ約4キロのバス専用道路が遊歩道になっており、昭和54年竣工の「黒渕トンネル」など一度も鉄道が走ることのなかった4つのトンネルも歩くことができます。
旧道に残る「天辻隧道」 かつての交通の要衝「大塔村阪本」の歴史とは

城戸から10キロほど南下した場所にある「天辻(てんつじ)峠」は交通の難所で、「国道168号の歴史を語る上で最も重要」と道マニア。
昭和34年に開通した「新天辻トンネル」の近くには旧道があり、大正11年竣工の「天辻隧道」が今も残っています。当時の最先端技術だったコンクリート製で、この隧道が造られたことにより、車で天辻峠を往来できるようになりました。
さらにその近くには、五新線の「天辻トンネル」も存在。鉄道が全線開通するまでの間、城戸まではバス専用道路として使用され、さらに大塔村(おおとうむら)阪本までの区間では工事が進められました。
そして昭和46年、長さ5キロの「天辻トンネル」が完成。トンネルの先に阪本駅を造る予定でしたが、未着手で鉄道計画自体が中止になりました。

難所と言われる天辻峠を越えるのには理由が。かつて木材や鉱山などの資材は、紀伊半島沿いを船で運搬していました。しかし、紀伊半島の複雑な海流や地形に対応するのが難しく、事故が多発。
この問題を解決するため、内陸部の川を通って阪本まで行き、陸路で天辻峠を越える方法が取られるように。これにより、安全に物資を運ぶことが可能になりました。
「林業の衰退、交通ルートの変化によって、船から鉄道や道路に変わり、道路が高規格化。輸送の方法が変われば、必要とされる要衝も移り変わっていく。道路を紐解くときに、道路だけ見ても分からないことがここには詰まっている」と道マニアは言います。
CBCテレビ「道との遭遇」2025年2月18日(火)午後11時56分放送より
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